けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【考察】第14話で描かれた東くんの成長と対比が凄すぎる!【タコピーの原罪】

Hatena

 ども、けろです。

 ここ最近、毎週のようにTwitterのトレンドに入り読者を地獄の底に叩き落としている令和が生んだモンスター漫画(多義)、『タコピーの原罪』ですが、例に漏れず僕も愛読しています。なぜか紙と電子の両方を購入したんですが、家で読む際は紙・外出先では電子と使い分けることでいつでもどこでもタコピーを読めます。それが良いか悪いかは人によると思います。

 

 さて、そんな『タコピーの原罪』ですが現在物語はクライマックス。上下巻の構成となっている関係上おそらくあと1〜2話で完結すると思われます。

 そしてついこの間公開された第14話の展開があまりにも神すぎて衝撃でした。

 

 というわけで今回は『タコピーの原罪』第14話で描かれた東直樹くんの成長と、これまでの物語との対比を見ていこうと思います。

 

 ちなみにYoutubeの方に動画も投稿していますので、こちらもよければ。

 

youtu.be

 

 それではやっていきましょう、『タコピーの原罪』感想・考察回です。

 

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1.第5話からのサブタイトルの変化

 

 第14話のサブタイトルは「直樹くんの介在」でした。

 これは第1巻収録第5話のサブタイトル「東くんの介在」との対比構造になっており、彼が物語を通して大きく成長したんだということがこのサブタイトルの変化に表れています。

 

 彼のフルネームは"東直樹"であり、第5話は苗字、第14話は名前がそれぞれ用いられているだけですが、これは『タコピーの原罪』という物語の中で大きな意味を持っています。

 東直樹という人物(以下直樹くん)は、肉親である母親からは二人称の「きみ」、行動を共にしていたタコピーとしずかちゃんにも「東くん」と呼ばれています。

 これは第10話で兄・潤也に救われるまで一貫しており、それまでのエピソードで直樹くんの下の名前が「直樹」であると明かされたシーンはありませんでした。

 

 この「名前が明かされない」というのは、そのまま「彼が誰からも注目されていない」ということを直接表しています。

 それは第10話で兄・潤也が「何でも聞くから」と直樹くんの力になろうと彼に寄り添い、その流れで直樹くんの「名前」を呼ぶシーンのカタルシスにも繋がっています。兄だけが「東直樹」という人間をずっと見続け、誰よりも力になりたいと願っていた人物だったからです。

 

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(引用:タイザン5『タコピーの原罪』上巻、集英社)

 

 つまり第5話「東くんの介在」時点では、直樹くんは自分に自信がなく、主体性を持たず、(本当の意味で)誰かを助けることはできない人物として描かれていたわけです。

 その結果どうなったかというと、直樹くんの申し出によりしずかちゃん・タコピーはまりなちゃんの死体を隠すという行為を取ってしまい、事態をより悪化させるという結末をもたらしました。

 

 それが兄によって救われ、第14話ではタコピーに対して答えを提示する役割を担えるほど変化しています。

 「しずかちゃんが良い人か悪い人かわからない」と困惑するタコピーに対して、「人間はそんなもんだろ」と清濁併せ呑む答えを示し、タコピーをしずかちゃんとの「おはなし」に導くその姿は、まさしく直樹くん自身の意思であり、彼が本当の意味で誰かの役に立った瞬間でもありました。

 

 いや、まさかサブタイトルの変化だけでここまで感情が揺り動かされるとは思ってなかったですし、美しすぎる芸当だなと感動しました。

 

2.「助ける↔︎助けられる」という対比構造

 

 「いいとこも悪いとこもあるだろ」とタコピーに伝えた直樹くんは、しずかちゃんがやってしまったことやタコピーの失敗について肯定も否定もせず、「それでも3人で遊べて楽しかった。生まれて初めてあんな学校が楽しみに思えた。それは友達だったからだ」と涙ながらに感謝の言葉を伝えます。

 

 いやもうこの時点で直樹くんも兄・潤也と同じ光属性に転じているんですが、この台詞が本当に深いなと思いました。

 というのも、これまでの直樹くんはタコピー達に対して「僕が力になってあげなくちゃ」という姿勢でした。自分が力になることでしずかちゃん達を「助けてあげられる」と思っていた直樹くんが、タコピー達と関わったことに対して「学校が楽しみに思えた」と言うのは、"救う↔︎救われる"の関係性が逆転しています。

 

 つまり、直樹くんは「タコピー達を救うはずが救われていた」わけで、逆にタコピーは「直樹くんに救われるはずが救っていた」という対比関係が成立しているわけです。単純な庇護の関係ではなく、「救う側」「救われる側」が複雑に混じり合い、ところによっては逆転しているというこの関係性、サラッと描かれていますがあまりに美しいと感じました。

 

3.新しい眼鏡

 

 第14話で登場した直樹くんは新しい眼鏡をかけており、タコピーの指摘に対して「兄・潤也が最後のバイト代で買ってくれた」と告げています。

 

 これまでの直樹くんがかけていたのは、幼少期に母親が買い与えた古い眼鏡で、もうピントが合っていませんでした。つまりタコピー/しずかちゃんと関わり事態を悪化させてしまった直樹くんは、「母親に囚われ続けた結果目の前がよく見えなかった」 と換言することができ、現在の直樹くんはそれとは対照的に「兄に導かれ歩みを進めることで、前が向けるようになった」と捉えることができるわけです。

 

 導き手である兄によって救われたことを「ピントの合う眼鏡」で表現する技法がとんでもなく美しく、それでいて読者の心に残るインパクトだったなと個人的には思っています。

 

 確かに現在の直樹くんの家庭環境は、直樹くんが犯してしまった過ちのせいで崩壊寸前に陥っています。母親はショックで寝込んでクリニックを閉めてしまい、兄の潤也はバイトをクビになり大学進学の道も暗雲が立ち込めています。おそらく直樹くん自身の進路も、明るいものと言うにはかなり厳しい状況です。

 

 それでもなぜか、2022年の未来で暗い影を落としていた高校生の直樹くんよりも、今の直樹くんの方がずっと救われているように見えるのは僕だけでしょうか。

 

 

 直樹くんの未来が少しでも明るいものになることを願っていますし、『タコピーの原罪』がどのような完結の形を迎えるのか、今から非常に楽しみです。

 

 『タコピーの原罪』に関しては今後もちまちまと記事にしていこうと思います。

 

 

 それではまた。

 

 よしなに。