けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【紹介】「存在しない青春」の追体験。純度100%の甘酸っぱさ【アオのハコ】

Hatena

 ども、けろです。

 「少年漫画の王道」といえば、「バトル漫画」「スポーツ漫画」「ギャグ漫画」と様々な王道ジャンルが挙がりますが、やっぱりいつの時代も「恋愛漫画・青春漫画」も王道として存在していると思います。『I's』『電影少女』『いちご100%』『ニセコイ』など、これまでも多くの恋愛作品/ラブコメ作品が世に送り出されました。ちなみに僕は世代的に『いちご100%』が通学路でした。

 

 これらの漫画の特徴は、やっぱり「男主人公目線で描かれる恋愛」だと思います。少女漫画が女主人公目線で描かれるのと対照的に、「少年誌の恋愛漫画」というのは「男性目線で描かれる」というのが読者のメイン層に刺さるな、と。

 

 とはいえ少年誌で恋愛/ラブコメ作品をやるというのは結構ハードルが高いと個人的に思っています。主人公がナヨナヨしすぎていてもイケイケすぎても読者からの共感は得にくいですし、ヒロインが可愛くなければこれまた読者が離れていきます。なおかつ「現実世界」をベースにしている作品であれば「あまりにぶっ飛びすぎる展開」というのもやりづらいです。

 これは全ての漫画に共通することではありますが、恋愛漫画というのは「読者のメイン層が程よく共感・応援できる主人公が、めちゃくちゃ可愛いヒロインとの日常を過ごしていく中での人間関係の機微を巧く描写する」というのが求められるのでは?と。

 

 

 前置きが長くなりましたが、久しぶりの漫画紹介記事です。

 今回はそんな前述のクソ高いハードルを易々と飛び越え、今やジャンプで大人気の青春・恋愛漫画、『アオのハコ』を取り上げます。

 

 というわけでやっていきましょう。

 ※ストーリーの根幹に触れる部分の詳細な描写は避けていますが、ネタバレが嫌な方はご注意ください。

 

 

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1.あらすじ

 

 中高一貫のスポーツ強豪校・栄明中学・高等学校に通う中学3年生・猪股大喜(表紙右側)は中学の部活を引退後、高校のバドミントン部の練習に参加していた。

 自主練となっている朝練に誰よりも早く来て練習しようと思っている大喜だったが、そこには常に先客がいた。大喜より一つ年上の高校1年生・鹿野千夏(表紙左側)。彼女は女子バスケットボール部の次期エースと目される選手で、実力・人柄・スター性を兼ね備えた超人で、大喜はそんな千夏先輩のことが密かに好きだった。

 

 ある日千夏先輩が海外に転勤することを母親から聞いた大喜は、誰よりも練習して誰よりも悔しいと涙を流せる千夏先輩に対して「インターハイ行ってください」と檄を飛ばす。

 実は千夏先輩は知り合いの家に居候する形で日本に残ることを決めており、大喜の完全な早とちりということが分かったが、次の日の朝自宅のキッチンに降りるとそこには千夏先輩の姿が。

 

 千夏先輩の母と大喜の母は高校時代の同級生で、「知り合いの家」というのは大喜の家だった。

 

 憧れの先輩と一つ屋根の下、大喜の激動の高校生活が始まるーーー。

 

2.大人で等身大な主人公

 

 と、大仰かつ"それっぽい"あらすじを書きましたが、ここからは平常運転でいきます。

 まずは本作品最大の魅力の一つ、主人公・大喜の内面を取り上げます。

 大喜の性格・人間性は、一言で表すなら「大人で等身大」という、ともすれば矛盾する側面を内包しています。

 

 まずは「等身大」から。

 作中での彼は第1話冒頭では中学3年生ですが第4話の時点で高校に進学しているのでここでは高校1年生・15歳としておきます。

 15歳の高校1年生というだけあって、作中の大喜は要所要所で「高校生っぽい側面」を覗かせます。

 

 憧れの千夏先輩に対して「結婚できたらなぁ」というあまりに先走りした夢を抱いたり、友人の笠原匡(きょう)に「喩えるなら千夏先輩はシード校で、お前は一回戦敗退。レベルが違いすぎるだろ」と冷静に諭されても「匡の言うこともわかるけどさ、挑戦しないと勝てないじゃん」と能天気に返答。

 千夏先輩との会話で「え、じゃあ(インターハイ)行かないの?私にはあんな風に言っておいて?」と煽られたら「行きます、行きますよ」と返してしまうし、良くも悪くも「めちゃくちゃ真っ直ぐな性格」なんですね。特に自分の気持ちに嘘がつけない性格で、「負けたくない」と思ったらそれを口に出すし、憧れの先輩の前だと取り繕ったり格好つけたりできない。

 

 この「等身大の高校生っぽさ」がめちゃくちゃ共感できるんですよ。

 僕自身は大喜ほど自分の気持ちを恥ずかしがらずにアウトプットできるような高校生ではなかったんですが、それでも大喜の真っ直ぐさを見ているとめちゃくちゃ気持ちが良い。恋愛漫画にあるような、「お前どうすんだよハッキリしろよ」というヤキモキした"ノイズ"をほとんど抱くことなくページを進めさせる魅力がある。

 

 でも、それでいて「大人」な側面も持ち合わせている。

 これは千夏先輩との関係をどうしたいのかと友人の匡に尋ねられた時の大喜の台詞に表れています。

 

「千夏先輩は一人で日本に残ったんだ。そんな覚悟目の当たりにして、「俺と恋愛してください」なんてもう言えないよ

 だから思ったんだよね。俺もこの夏インターハイ行こうって」

 

 もう一度言いますが大喜は高校1年生です。語弊を恐れずに言えばクソガキ真っ只中です。「高校」という"狭いハコ"が自分の世界の全てだと信じ、未来に対して漠然とした期待を抱く、「何者にもなれるが何者でもない時期」の真っ最中です。

 そんな思春期の只中で、「先輩と付き合って青春したい」という夢を抱くのは至極当然の流れです。というかむしろ「恋愛要素のある漫画」なら、それを一つの目標地点にして物語が進むので、「恋愛」に対してここまで冷静な判断を下せる大喜は「ヤベェ奴」なんですよ。高校生ならもっと自分中心に生きても良いんだぞ?と思ってしまうほどには大喜は「大人」で、だからこそ彼の行動には読者に与えるストレスというのがほとんどないのでは、と。

 

 この「等身大の高校生っぽさ」「高校生にしては達観した姿勢」がちょうど良い塩梅で混ざっているから、ストレスなく読み進めることができるし応援したくなるんですよ。

 先輩との関係性を進展させる上で「自分の都合」を押し付けずに行動しているし、でも「先輩がインターハイ目指すなら俺も」と子供っぽい側面もある。シンプルに主人公像の構築がめちゃくちゃ上手い。

 

3.アホほど可愛い千夏先輩

 

 もう一つ、恋愛漫画において欠かすことのできない要素が「魅力的なヒロイン」です。

 これはもう実際に読んでもらうほかない気がするんですが、マジで可愛いです。アホほど可愛いし、僕は毎週日曜日の深夜に「千夏先輩ーーーッ!!!」と悶絶するキモいオタクになっています。

 ひとえに作者の画力・表現力が凄いという話なんですが、要所要所で描かれる千夏先輩の表情が悩殺(死語)なんですよ。

 

 第1話で大喜に「千夏先輩、中学引退の翌日も練習してたじゃないですか」と言われた時のハッとした表情、「インターハイ行ってください」と背中を押された時の「君のおかげだよ」と微笑む表情、大喜と大喜の幼馴染の関係を勘違いしてた時に「先輩バカでしょ」とからかわれてムッとする表情、全部「大正解」なんですよ。

 

 おまけに内面も良いです。恋愛漫画というと、どうしても物語を進める上で舞台装置になってしまうキャラクターがいるというか、物語の進行上読者のストレスになる行動を取るヒロイン・サブヒロインがいたりするんですが、千夏先輩にはそれがない。「才色兼備なヒロイン」といえば紋切り型ですが、型通りではない魅力がある。僕は千夏先輩が大好きなオタクです。アホほど可愛い。ユネスコ可愛すぎ遺産に認定してほしい。

 

4.「存在しない青春」の追体験

 

 ただ、それだけではこの漫画はここまで人気になっていないとも思います。魅力的な主人公がいても展開が微妙で打ち切られることはあるし、ヒロインがクッソ可愛くても主人公に感情移入できないといまいち乗り切れない。キャラクターはあくまで「キャラクター」であり、そこから「どう動くのか」が大事なのではと思うわけです。

 

 その点で僕はこの漫画に『「存在しない青春」の追体験』というキャッチコピーを勝手につけています。

 

 この漫画、とにかく展開と構成が上手いんですよ。絶妙なポイントを抑えていて、読者の頭の中に"集合的なイメージ"として浮かんでいる「青春のワンシーン」を切り取って物語に落とし込んでいる。

 

 どういうことかと言うと、「青春」「学校生活」といったぼんやりとしたキーワードを浮かべた時に、読者の誰もが頭の中に思い浮かべる「青春っぽさ」をちゃんと描いているんです。

 千夏先輩と同じクラスの針生先輩が千夏先輩のことを「ちー」と親しい距離感で呼んでいることに対して「羨ましいいいい!!」と発狂するのも、二人で水族館デートするのも、取り違えたジャージを屋上で受け取るのも、「現実じゃまぁまぁあり得ないけど"青春"だよなぁ」と読者が思えるものなんですよ。

 

 これは言語化が難しいんですが、『アオのハコ』で描かれている展開というのはどれも「うわぁ〜〜〜わかる!わかるよ大喜!」と思えるんです。それは読者がどういう青春時代を経験したかに依りません。先輩の呼び名ひとつで頭を抱えて悶絶した経験も、水族館デートをした体験も、屋上に登った記憶もないはずなのに、どこか「懐かしさ」を感じる甘酸っぱさをちゃんと描いてくれるから、次の展開が楽しみで仕方がないし安心して読み進められるなぁと。

 

 

 まとめるとこの漫画は読者に『「存在しない青春」を追体験させてくれる漫画』だと思っています。

 もちろん好き嫌いは分かれると思います。大喜と千夏先輩の関係の進展があまりに綺麗というか、周りの人間が彼らのための「外野」になっている側面もあり、ある種「理想化された青春」になっている点は否定できません。

 

 でもそれで良いんですよ(開き直り)。僕たちが青春漫画・恋愛漫画に求めているのは現実と同じ理不尽さに打ちのめされる展開でも、努力しても報われない主人公の想いでもなく、「ただただ甘酸っぱい青春の1ページ」なんです。だからこの漫画はこのままで良いんです。

 

 何が凄いって、この漫画はまだ22話なんですよ。その中でここまで濃密な物語を詰め込んでいるのが凄いし、間延びした展開がほぼない。大喜たちの歩みを一歩一歩丁寧かつスピーディに描いているのが最高です。そりゃ22話で何回もカラーページ載るよなって感じです。

 

 

 

 久しぶりの紹介記事、気づいたらかなりの文字数になっていました。

 また気になる漫画があったらこうして取り上げていこうと思います。

 

 

 それではまた。

 

 よしなに。