けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【感想】大人の事情の解像度の高さと、それに冷や水浴びせちゃう原作者【推しの子】

Hatena

 ども、けろです。

 

 突然ですが、僕は「漫画」というフィクション作品、ひいては「表現活動」全般の最たる特徴の一つに、「社会風刺」があると思っています。

 ニュースや記事による事実の提示や世論の形成も大事ですが、それと同じくらい「カジュアルな媒体を通じて問題を認識すること」も大事だなぁと。

 

 『推しの子』という作品は、物語のテイスト自体はかなりポップでカジュアルなんですが、物語の根幹には「母親を死に追いやった相手への復讐」があり、それらが絡むと一気にディープになるし、社会風刺的側面が出てくるんですよ。

 

 例えば母親が殺されたとき、主人公の妹が「有名税って何?傷つけられる側が自分を納得させるために使う言葉を、人を傷つける免罪符に使うな」と叫んだのは辛辣かつ的確な社会批判ですし、他にもメインキャラクターの一人・黒川あかねがSNS・インターネット上での侮辱・批判・罵倒に晒される回も、思わず目を覆いたくなるほどのリアルさでした。

 

 といった風に、漫画『推しの子』は時折そのダークさや解像度の高さで読者を惹きつける作品です。

 

 

 前置きが長くなってしまいましたが、今回はそんな「解像度の高さ」に溢れた一話でした。

 というわけでやっていきましょう、推しの子感想回です。

 

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1.メディアミックスにおける葛藤の数々

 

 自分たちが演じる舞台の脚本についてあかねちゃんから問われたアクアの「俺が前に出たドラマの脚本に比べたら90倍はマシ」という台詞はめちゃくちゃ面白かったです。

 

 「90倍」という数字が妙にリアルだし、事実アクアが以前出演したドラマ『今日は甘口で』はネットでも散々な評価を下された作品だったので。

 

 ただ、アクアに対してあかねちゃんは今回の舞台の脚本に色々葛藤があるようで、それを指摘されると「多くの人にあーだこーだ言われたら役者も混乱するでしょ?」と振る舞っています。

 

 これ結構わかる気がするんですよねぇ。

 僕は演技の世界とは程遠い一般企業で働く社会人ですが、やっぱり「折り合いの付け所」というのは随所に存在しているんですよ。

 「自分的にはこうしたいけど、そうすると組織全体に歪みが生じてしまうからやめておこう」とか「自分の我儘で周りを振り回すわけにはいかない」とか、多分会社や部活といった組織に所属したことのある人なら大なり小なり共感できることじゃないでしょうか。

 

 まぁそのことに関して高校生で折り合いをつけて「仕方ないよね」と割り切れてるあかねちゃんはだいぶ大人だなぁと思います。

 

 

 ただ、それを良しとしないアクアは直球で脚本家に物申してしまう。この不躾さ、正直めちゃくちゃ好きです。

 

 ここで語られたのは、メディアミックスにおける脚本家の葛藤・苦悩でした。

 

 漫画がアニメやドラマになるとき、よく「原作改変だ!」「キャラクター改変はクソ!」という声を目にします。

 僕も原作原理主義者なので概ね共感できるんですが、これって確かに仕方のないことなんですよ。

 

 脚本家のGOAというキャラクターが口にした「全て原作通りにするなら脚本家という職業は要らない」という台詞はまさにその通りだし、「様々な思惑が錯綜する群像劇を2時間程度の尺に入れ込むとなると、それなりにシンプルに整理する必要がある」という語りは納得してしまいます。

 ドラマやアニメは(原作のファンありきというのは大前提ですが)商業活動であり、そこに様々な利害や関係者がいる以上、「取捨選択」は必要な行為なんだろうなぁと。

 

 特に舞台や映画は(ドラマやアニメよりも)尺が明確に定まっているので、何巻も出ている漫画原作を映像化するとなると大変な作業になるんだなぁ……という浅い感想を抱きました。

 

 演出家の「作劇としてこの判断は間違っていない。だから採用した」というのも演出家というプロ目線での評価を感じますし、なるほどなぁ、と。 (まぁ彼の「俺も原作は最初の何巻かは読んだが」という台詞には「漫画のメディアミックス」に対する浅さを感じたのでそこら辺のキャラ描写もめちゃくちゃ巧いです)

 

2.原作者による「ちゃぶ台返し」

 

 大人の都合と演者の葛藤を抱えながらも順調に稽古が進む舞台。

 

 そこに顔を覗かせた原作者。

 

 序盤に感じた不穏な空気を感じさせないほのぼのとした空気感は良いですね。原作者が理解を示してくれるのは良いことです。

 

 と思っていたら……

 

 

「脚本て今からでも直して貰えますか?」

 

「どの辺て言うか、その、全部?」

 

 

 出た〜〜〜〜〜〜!!!伝家の宝刀、「ちゃぶ台返し」だァ〜〜〜〜!

 大人達が折り合いをつけながら保ってきた体裁を全部ぶっ壊す最強の一手にして禁じ手中の禁じ手〜〜〜〜!!!

 

 

 冷や汗流しながら閉口する同行の漫画家、顔面蒼白になる担当編集と脚本家、唖然とする監督。

 

 

 いやそれはそう。

 

 それが当然の反応。

 

 でもこれって「演者/関係者の誰しもが心の奥底では思っていたけど、関係各所への迷惑になるだろうから口にしてこなかった本音」だと思うんですよね。

 僕ら読者・視聴者はあくまで「消費する側」なので作品に対して好き勝手な意見・感想を口にすることができますが、「作る側」というのはそうじゃないじゃないですか。

 スポンサーへの配慮、「尺」という時間的制約、予算という限界、限られた制作期間………そうした様々な「しがらみ」を踏まえた上で了承し、清濁併せ呑んで創作に打ち込むのが「作り手」であって、そこに「葛藤」というのはあって当たり前だと思うんですよ(それらを「我慢」することまで折り込み済みで)。

 

 

 それを全部ひっくり返しちゃう原作者の天然ぶり、最高です。

 本人には悪意がないのがまた良いですね。思ったことがそのまま口から出ちゃった感じ。

 

 

 これが舞台にどのようなエッセンスとなるのか、次回へのヒキがあまりにもうますぎる。

 しかも次週は休載とのことなので、続きが読めるのは二週間後。

 

 

 めちゃくちゃ気になるので早く時間が経ってくれという思いです。

 

 

 というわけでまた二週間後。

 

 それでは。

 

 よしなに。