ども、けろです。
劇場版呪術廻戦0、及び呪術廻戦0巻の主人公乙骨と、その宿敵であり裏主人公でもある夏油傑。
この二人にはキャラクターとしての共通点と、その共通点から出発した対比がいくつか見られます。
というわけで今回は、そんな劇場版呪術廻戦0で激突し、雌雄を決した乙骨憂太と夏油傑の対比・共通点をそれぞれまとめることで、劇場版呪術廻戦0にはどのようなメッセージが込められていたのかまで考えていきたいと思います。
映画の感想に関してはこちらから是非。
kero-entame-channel.hatenablog.com
それではやっていきましょう、劇場版呪術廻戦考察回です。
0.前提
まずは本考察の大前提として、「呪術廻戦0はどのようなメッセージを含んだ作品だったのか」という要素を書き出しておきたいと思います。
物語そのものの大きな軸は、上記リンクの感想記事にも書いている通り「かつて別れ損なった大切な人と決別する物語」なのですが、「乙骨憂太と夏油傑の対決」に絞ってみると、また別のメッセージが出てきます。
解釈:呪術廻戦0は「大義よりも自分の願いが大事である」と伝える物語である。
この仮定をもとに二人の共通点、及び対比を見ていきましょう。
1.共通点
乙骨憂太と夏油傑は、キャラクター的にはかなり異なっているというか、重なる部分がほとんどない人物像をしています。
そのため「共通点」というのはあまり見られないのですが、数少ない共通点を踏まえておくことで「二人が決定的に道を違えているのだ」というのがより伝わりやすいなと思っています。
1-1.術師としての等級
二人は術師としてはどちらも「特級術師」としての階級を有しています。物語の中でもしつこく描かれていますし、夏油本人も作中で「同じ特級、早く挨拶したいなぁ」とも言っています。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、特級術師のレア度を考えると相当に稀なことです。
0巻の中で禪院真希は「術師は4から1までの階級がある」と述べ、そこに「特級」を含んでいません。これは「通常の術師は1〜4級のいずれかに属し、特級は斜め上に外れた位置付けである」ということを示唆しています。作中でも特級は4人しか登場していませんしね。
1-2.出自
加えてこの二人は「非術師の家庭に生まれる」という共通の出自を持っています。
膨大な呪力を持つ乙骨に関しては「菅原道真の子孫」ということが映画の最後で明かされていますが、家系的には非術師の家系です。劇場で配布された0.5巻内のQ&Aの中でも「憂太は覚醒遺伝的なあれです」と言われています。
対する夏油も、乙骨同様に非術師の家系出身であり、高専にはスカウトで入学しています。
つまりこの二人の共通点を総合すると、「非術師の家系に生まれながら膨大な呪力/強力無比な術式をその身に宿し、同じ特級という階級にまで上り詰めたキャラクター」という人物像が浮かび上がってきます。
こうした共通点を持つ二人が、最後どういう終わりを迎えたのかは映画を見ている方はご存知ですが……
2.対比
さて、ここからが本題。乙骨憂太と夏油傑というキャラクター像において、明確に対比であることが読み取れる要素を考察していきます。
2-1.戦う目的の差異〜「自己肯定」と「大義」〜
2-1-1.自己肯定の乙骨
乙骨憂太が戦う理由、もっと言えば作中で呪霊/呪詛師相手に立ち向かう理由は至ってシンプルで、「自己肯定」です。
初めての任務で訪れた学校に現れた呪霊に食われた際、その腹の中で真希に「お前呪術高専に何しにきた」と訊ねられた乙骨は「誰かと関わりたい。誰かに必要とされて、生きてていって自信が欲しいんだ」と返します。
この乙骨の言葉は、単に「何故高専に来たのか」という問いに対する答えであり、呪霊を祓うことそのものの理由ではありません。
ですがこのシーンの直後、「じゃあ呪いを払え」と真希に一喝された乙骨は里香の力を引き出して呪霊を祓います。
つまりこの時点で乙骨は「自分が生きてていいという自信を得るために、呪いを祓うことを決意した」ことになります。
また、夏油とのラストバトルで彼を殴り飛ばした乙骨は、「僕が皆の友達でいるために、僕が僕を生きてていいって思えるように、オマエは殺さなきゃいけないんだ」と(作中屈指の)名セリフで応じます。
この乙骨の姿勢を、夏油は「自己中心的だね。だが自己肯定か。生きていく上でこれ以上に大事なこともないだろう」と評しており、このことから乙骨は「何か大きな大義を持っているわけではなく、自分(と自分の大切にする友)のために戦っている人物」だということが浮かび上がってきます。乙骨自身も、夏油の掲げる大義に関しては正誤の判断は一切下しておらず、「お前が正しいかなんて僕にはわからない」とも述べていますね。
2-1-2.大義の夏油
対する夏油が戦う理由は、「非術師を皆殺しにして術師だけの楽園を作るため」です。より抽象化していうならば、「術師が傷つかない世界のため」でしょうか。
これはあくまで高専離反後の夏油傑の人物像ですが、離反前の夏油が戦っていた理由も、これと似た性質を含んでいます。
高専時代の夏油は「弱者生存」を戦う名目として掲げ、「弱きを助け強きを挫く」「強者は弱者を助けるためにある」という大義を抱いていました。
高専離反前と離反後、一見すると対極に見える夏油の戦う理由ですが、そのどちらにも「夏油本人の感情」は含まれておらず、「大義としての"べき論"」が中心に据えられています。
つまり夏油が戦う理由には、「夏油本人がどうしたいか、どう生きたいか」という夏油目線の感情は一切含まれておらず、逆に「術師とはこうあるべき」「世界とはこうあるべき」という大義的な思想を胸に戦いに身を投じているということになります。
乙骨が「大義ではなく自分の感情・願望を優先して自己肯定のために戦う」のに対し、夏油は「自分の感情ではなく"○○とはかくあるべし"という大義で自分を動かしていた」という対比があるわけです。
2-2.他者との繋がり〜繋がりを求めた乙骨、断ち切った夏油〜
乙骨と夏油の対比は、彼らが他者に対して向ける眼差しにも現れています。
乙骨は、誰も傷つけたくないという理由から一度は他人との繋がりを断ち、自死を考えます。
ただ、五条から「一人は寂しいよ」と諭され、「誰かと関わりたい」という願望を叶えるために高専の門を叩きます。
それ以降も乙骨は狗巻と共闘したり、友人を傷つけた夏油相手に激昂したりと、友人と気遣う姿勢が垣間見えます。
乙骨は「他人との繋がりを断とうとしたができなかった人物」であり、どこかで他人との繋がりを望んでいるのだということが作中の描写から窺えます。
対する夏油はというと、もちろん美々子や菜々子達といった「家族」と共に暮らしてはいますが、「他人との繋がりを断ち切った」という過去があります。
美々子菜々子を助けるために訪れた村の村民100人以上を虐殺し、自分の両親にも手をかけた夏油は高専を離反するわけですが、この時点での夏油は完全な天涯孤独の道を自ら選び取っています。
肉親との絆、高専の友人の繋がりを断ち切り、独りで修羅の道を歩み始めた夏油と、そんな夏油を止めるために立ちはだかった、他人との繋がりを求めた乙骨。なんとも皮肉な対比だと思いませんか。
2-3.戦い方の違い〜無二の里香と有象無象の呪霊〜
二人の対比は、その戦い方にも現れています。
乙骨の戦闘スタイルは刀を主軸にした近接戦闘ですが、作中終盤では里香を顕現させて共闘しています。里香の呪力を変化させて呪言を模倣したり、通称『純愛ビーム』と呼ばれる呪力による攻撃を放つなど多様な攻撃を行なっていますが、その軸になっているのは常に「折本里香という唯一無二の存在」です。
言い換えるなら、折本里香は乙骨にとって「唯一無二」であり、「替えの効かない存在」であるということです。
それに対して夏油傑は、もちろん近接での戦闘も充分にこなせますが、主な戦闘スタイルはその生得術式である「呪霊操術」です。
呪霊を取り込み、己の力にする強力無比な術式であり、0巻の時点で夏油は6000を超える数の呪霊を取り込んでいました。
ここで注目したいのは、夏油が操る呪霊は「替えの効く存在」であり、「名前を持たない有象無象の集合体」である点です。
中には「特級呪霊・化身玉藻前」のような固有の名称を持つ呪霊もいますし、過去編でも「虹龍」と呼ばれる呪霊を使っていました。ただ、それ以外の呪霊はそのほとんどが「名前の無い存在」であり、その点でも「折本里香」を使う乙骨との対比になっています。
乙骨が「唯一無二の存在」と共に戦っていたのに対し、夏油は「替えの効く有象無象」を武器として戦っていた、ということですね。
さて、いかがでしょうか。
ここまでの話を総括すると、乙骨憂太と夏油傑は
・非術師の家系に生まれ、同じ特級という等級を持つ術師でありながら
・乙骨は純粋な自己肯定、夏油は自己を押し殺した大義を胸に刻み
・乙骨が他者との繋がりを求めたのに対し夏油はそれを自ら断ち切り
・唯一無二の「里香」を使役する乙骨に、夏油は「有象無象」で立ち向かう
という構図であるということが浮かび上がってきます。
そしてこの戦いの勝者は「自己肯定的で他者との繋がりを求め、たった一人の大切な人の力を借り受けて戦う乙骨憂太」でした。
二人の人物像の背後にあるこれらの対比を元に彼らの戦いの決着を見てみると、乙骨憂太の勝利というのは少し強引ですが「自己肯定が大義に打ち勝った物語」と読み替えることができるわけです。
作品そのものがこうしたメッセージを伝えることを意図しているのかは定かではありませんが、こういう解釈もできるのだと考えると、もう一度劇場に足を運びたくなってきませんか。
というわけで今回はこの辺で。
劇場でお会いしましょう。
よしなに。