けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【考察】BLEACH原画展主題歌・"Rapport / キタニタツヤ"の歌詞の意味を考える【BLEACH】

Hatena

 ども、けろです。

 皆さんはBLEACH20周年記念原画展・BLEACH EX.をご存知でしょうか。

 僕は気合いと運となけなしのお金を使ってなんとか原画展のチケットを当てることに成功し、今から楽しみで交感神経がやばいことになっています。

 

 さて、そんなBLEACH原画展ですが、なんと公式のPVがあります。

 

www.youtube.com

 

 映像のクオリティがあまりにも高すぎてこの時点で鼻血が止まらないんですが、主題歌がキタニタツヤさんの書き下ろしというのがまた最高です。

 10月に公開されたPVでは曲の一部だけでしたが、先日キタニタツヤさんの公式チャンネルにフルMVが公開されました。5000回見てください。

 

www.youtube.com

 

 その歌詞の内容があまりにも見事にBLEACHの世界を表現していたので、今回はその歌詞の中身に触れつつ、その意味をゆるっと考察していきます。

 

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1.ウルキオラ目線で語られる一番

 

がらんどうの胸に覚えた違和感さえ

ひとりきりでは御しきれない

この目も鼻も耳も、内側の僕に届かない

茫漠たる灰の海で

痛みさえ忘れていたんだ

そんな僕の目の前に現れたあなたに

見えないものを見たんだ

あなたと僕の間にあった温度を

僕の弱さを少し預けていられた

あなたの言葉が僕の鎖を解いて

空が白んでいくような

この手の中の光が心だと知ったんだ

 

 一番の歌詞を見たときに最初に思い浮かんだのが、第四十刃であるウルキオラでした。

 「がらんどう」とは空っぽのこと。

 そこに抱えた違和感を「御しきれない」と表現するのは、その感覚にこれまで覚えがなく、どのように処理すれば良いのかも形容すれば良いのかも知らなかったからでは、と。

 

 ウルキオラはその出自が特異な一族であることがファンブックにて明かされており、一族の他の者が真っ黒な見た目をしている中ウルキオラだけは全身が白く、眼以外が仮面で覆われているビジュアルをしていました。

 

 「茫漠たる灰の海で、痛みさえ忘れていた」というのは、一族から離れて虚圏を歩き、やがて見つけた石英状の木が生い茂る森の中に身を沈め、自我が失われていく感覚を「幸福」と評していたウルキオラの来歴と符合します。ここでいう「灰の海」というのは、虚圏全土を覆う白い砂の比喩であり、「取り止めがないほど広いさま」を表す「茫漠」という言葉からもそれは推測できます。

 

 「そんな僕の目の前に現れたあなたに見えないものを見たんだ」「あなたと僕の間にあった温度を」というのは、前後の流れとウルキオラのエピソードを鑑みるに「井上織姫」が最も符合するかと思われます。

 ウルキオラは井上織姫が語る「心」の存在にずっと懐疑的で、井上を助けに虚圏に乗り込んできた黒崎一護達の行動にも理解ができずにいました。

 

 そんなウルキオラは人間である井上と出会い、関わっていく中で徐々に変わっていき、一護に敗れ死にゆくその只中で「心」の在処に気が付きます。

 

 「この手の中の光が心だと知ったんだ」という締めくくりは、まさしくウルキオラが死の間際、井上に向けて伸ばした掌に心をあるのだと知ったウルキオラの最期と被りますね。

 僕はこのエピソードが本当に好きなんですが、それはその直前でルキアと海燕の過去回想の中で「心の所在」についての話があったからなんですよ。詳しくは割愛しますが、海燕は「心」について、「世界に自分一人しか居なかったら心なんてものは何処にも無ぇんじゃねぇかな」「俺とお前がふれ合うとき、心は初めて俺達の間に生まれるんだよ」と述べていて、それはウルキオラが死に際に放った言葉と綺麗に符合します。

 ウルキオラはずっと孤独で、誰かとふれ合うことをしてこなかった。そんなウルキオラに真正面からぶつかってきた人間・井上織姫との"繋がり"を通じて「心」を知る……BLEACHのエピソードでも屈指の神回です。

 

 もちろん、この歌詞は他の解釈も十二分にできうると思います。

 特に「ひとりきりでは御しきれない」「僕の弱さを少し預けていられた」という部分からは、強すぎる力を持って生まれてしまったが故に仲間を得られず、孤独を歩んだ結果リリネットを生み出したスタークとも、自分の力をヒトの形で顕現させた(と思われる)更木剣八とも一致します。

 ただ、そのどれもが「独りで生きることの無力さ、悲しさ」を意味し、「誰かとふれ合うことで初めて生まれる感情」を綴っていることを考えると、この一番の歌詞はBLEACHの多くのキャラクターに当てはまると言えそうです。

 ちなみに「がらんどう」という言葉はBLEACH第666話『空っぽ、傀儡、伽藍堂』のサブタイトル内で登場しています。

 

2.内なる虚と戦う一護目線で始まる二番

 

誰かを傷つけてしまう悪夢で

浅い呼吸を繰り返して

その矢印の向きをこの胸の奥に集めて

安寧の孤独の中で

静かな終わりを願って

少しずつ冷えていく何かが寂しかった

それでも構わなかった

誰かを愛して愛されたいと望むこと

同じ数だけ痛みがあるということ

そうして鎖した僕の胸の奥まで

あなたで満ちてしまったんだ

壁が崩れて橋が架かって僕は

あなたがくれた呼吸で

優しい刃で

見えた形の無いものを

この手の中の光を護りたいと願った

 

 「誰かを傷つけてしまう悪夢」と聞いて真っ先に浮かんだのが、「内なる虚に身体を乗っ取られることに恐怖する一護」のシーンでした。

 尸魂界篇での白哉との一戦で虚化し、その後自分の内側に伸びる影に怯えていた一護は、現世にやってきたルキアに「敗北が恐ろしければ強くなればいい」と激励されることで立ち直ります。出だしはそのシーンが蘇りますね。

 

 ただ、その直後の歌詞に関しては結構いろいろな解釈が生まれそうだな、と感じました。

 

 「安寧の孤独の中で静かな終わりを願って」というのは、ともすれば一番同様ウルキオラのことを指しているようにも見えますし、「安寧」というワードは「復讐の為に組織に入った者が安寧たる暮らしに目的を忘れ組織に迎合する事は堕落ではないのか?」と吐き捨てた東仙の姿を想起させます。

 「あなたがくれた呼吸で、優しい刃で」と続く歌詞もまた多様なキャラクターに当てはまるなと感じます。

 「あなたがくれた優しい刃」といえば、ルキアから死神の力を与えられた一護のことが浮かびますが、他には乱菊と出会って彼女を護ると決めた市丸ギンも浮かびます。

 また、「光」という言葉はラテン語で"Lux"といい、それ由来の人名として"Lukia/Lucia"があります。つまり「朽木ルキア=光の比喩」として捉えることも可能であり、そう考えると「この手の中の光を護りたいと願った」という歌詞は、緋真と出会って愛を知り、その緋真との約束を守る為にルキアを養子として迎え入れた白哉のことも表していると言えます。

 

 総じて「ヤバい」以外に表現する語彙がないくらいにはとんでもない一曲なわけですが、何より凄まじいのはBLEACHの世界観をここまで言語化して表現するキタニタツヤさんの才能ですよ。いやほんま凄すぎ。

 

3.随所に散りばめられたBLEACHイズム

 

 歌詞の解釈については十人十色だと思いますので、ここから先は個人的に気になったポイントをいくつか抜粋します。

 

3-1.「茫漠たる灰の海」

 

 まずは一番の「茫漠たる灰の海」という言い回し。

 「灰の海」という言い回しがとても BLEACHっぽいなと感じました。

 

 それは単行本42巻、ハリベルが表紙の巻の巻頭ポエムに似たような言い回しが登場するからです。

 

犠牲無き世界などありはしない

気付かないのか

我々は

血の海に灰を浮かべた地獄の名を

仮に世界と

呼んでいるのだ

 

 「世界」のことを「血の海に灰を浮かべた地獄」と換言する原作者の語彙がまずヤバいんですが、キタニタツヤさんの歌詞にも似たイズムを感じます。

 直線的に考えるのであれば「茫漠たる灰の海」は前述の通り虚圏の砂漠のことですが、こうしてオーバーラップさせてみると「世界」の言い換えであると考えることができます。「夥しく広がる、色彩の無い世界」を表しているのかな、と。ヤバいですね。

 

 

3-2.「鎖した」という言い方

 

 耳で聞いている時も「もしかしてここの歌詞ってそういうこと?」と思っていたんですが、公式の歌詞を見て確信しました。

 通常、「心を"とざす"」と言うときは「閉ざす」の字が当てられます。というより常用的にはこっちしか使わない気がします。

 ですが本曲ではそれが「鎖した」となっていて、ここにも作中で用いられた言葉が出てきます。

 

 ウルキオラの帰刃「黒翼大魔」の解号が「鎖せ」であり、一護が表紙のキャラクターブックの巻頭には「天を鎖す太陽」と描かれています。

 だから何って話ではあるんですが、原作を知っているとよりニヤッとできるこうした遊び心が最高です。

 

 

 ちょっとまだ全然聴けてないし、MVもそこまでガッツリ見まくれてはいないので、今後聴き込んでいく中でまた新しい発見があるとは思いますが、今回はこの辺で。

 

 

 それではまた。

 

 よしなに。