けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【映画感想】僕のヒーローアカデミア THE MOVIE WHM|最高純度のジャンプアニメ映画【ネタバレ注意】

Hatena

 ども、けろです。

 皆さん、先日8月6日公開になった映画、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールドヒーローズミッション(以下WHM)』は観ましたか。

 

 このブログは本来僕が好きな漫画に関する考察や感想を記事にしているんですが、この映画を観てしまった以上、ここで取り上げないわけにはいかないだろうという使命感、そして何より、映画の感想を誰かと共有して早口で語りたいというオタク心に火がついてしまったわけです。

 

 というわけで今回は、先日公開になったばかりの映画、『僕のヒーローアカデミア WHM』の感想・考察を結構なボリュームでお届けします。この記事を書くまではSNS上での感想等を見ないようにしてきたので、限りなく純度100%に近い僕の感想です。

 

 初めに断っておきますが、このブログはヒロアカの映画を観てから読むことを強くオススメします。全編に渡って映画のネタバレにガンガン触れますし、展開についてもかなり触れます。おそらくこの記事を読んだ後でも十二分に楽しめるとは思いますが、初見の感動を大事にしたい方はここでブラウザバックを推奨します。

 

 

 いいですか?始めますよ?

 

 それではやっていきます、ヒロアカ映画感想回です。

 

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1.総合評価

 

 まず初めに、この映画の個人的な評価を述べておきます。

 

 この映画、『僕のヒーローアカデミア WHM』は、5段階評価で☆5です。

 

 要するに「めちゃくちゃ面白い、最高にアツい少年漫画アニメだった」ということです。

 後述するように細かなところで気になったところはありますが、それを踏まえても序盤から終盤まで息もつかせぬほど圧倒的な疾走感と迫力で駆け抜けたこの映画は、今までのジャンプ作品の映画の中でも屈指の出来だったと思っています。

 

 

 ではどこが良かったのか、個人的に良かったと思う点に一つずつ触れていきましょう。

 

2.良かった点

2-1.あり得ないほど動き回る圧倒的カメラワーク

 

 まずこれです。序盤の「ヒューマライズ」支部の一斉襲撃、街中でのパルクールアクション、"敵"との野戦、終盤の「ヒューマライズ」アジトでの幹部級"敵"との戦闘や、デクとフレクト・ターンのラストバトルと、今作はかなりバトルやアクションに重きを置いた構成になっていたんですが、そのどれもが圧倒的なカメラワークでアクションを"魅せ"ていました。

 

 下や上、左右等あらゆるアングルから、"どういう角度で映せばアクションが画面映えするのか"という点を追求しているな、と感じました。

 例えば序盤の市街地、メインキャラの一人ロディがアタッシュケースを奪ってデクから逃げるシーンのパルクール。あれは本当に"街中を縦横無尽に飛び回っている"という感覚を観ている側に見せつけていましたし、一点で固定されていないカメラアングルだからこそできる芸当だなと思います。

 

 他には爆豪と焦凍がヘリに乗る"敵"と戦闘になった際も、フィールドを3次元的に使う彼らのアクロバットさが際立っていて、めちゃくちゃカッコよかった。

 

 作画が良いのはもちろんのこと、あそこまで画面を上手く扱えるのはさすがボンズだなとひしひしと感じました。

 

2-2.デク、爆豪、焦凍のトリオの活躍

 

 次にこれです。本作は(キービジュアルにもあるように)エンデヴァー事務所にインターン生として参加している3人がメインキャラクターとして描かれていたので当然と言えば当然ですが、ラストでのバトルシーンは圧巻でした。

 

2-2-1.爆豪vsサーペンターズ

 

 身体から蛇腹剣を生み出すという強個性を操る双子との戦い、序盤はその動きに翻弄され、全身を切り刻まれる爆豪でしたが、徐々に適応し、フィールドを使って高速の戦闘を繰り広げました。

 この戦闘は「やっぱりかっちゃんってセンスの塊だな」と感じさせるもので、例えば戦闘中にフィールドに手榴弾を設置して誘爆させたり、高速戦闘の最中に生まれた敵の一瞬の隙を突いて必殺技・ハウザーインパクトを放つのは爆豪節全開でしたね。

 

 というかヒロアカ読者なら多分多くの人が「かっちゃんだし多分最後はハウザーインパクトで決めるんだろうな」と薄々気づいていたと思うんですが、それでも圧倒的な作画とカメラワークで描かれる暴君の活躍は凄まじかったです。

 

2-2-2.焦凍vsレヴィアタン

 

 どう考えても人外の見た目をしているレヴィアタンですが、個性自体はその異形な見た目ではなく指先と頭部の角から水流を作り出して操るというもので、これがなかなかに焦凍と相性が悪かったですね。

 氷結も炎熱も無効化してしまうレヴィアタンの攻撃に押され、水中で意識を失いかける焦凍。水流の向かう先が外であることに気づいた焦凍は、外に飛び出すや否や氷結でレヴィアタンの動きを一時的に封じ、続いて渾身の一撃・赫灼熱拳でレヴィアタンを沈めます。

 

 これの何が熱いって、焦凍が最後に使った技が自ら生み出した「膨冷熱波」ではなく父親が得意とする「赫灼熱拳」なところです。

 ヒロアカの物語では、焦凍は登場当初父親であるエンデヴァーを憎み、自らの半身に宿るエンデヴァーの個性を忌み嫌っていました。そこから一歩踏み出すきっかけを与えてくれたのは他でもないデクなわけですが、今回はそこから更に進み、「父親の技をその身に宿し、"敵"を倒す」というところまでいってくれたんです。

 

 特に単行本・本誌を読んでいる方ならお分かりの通り、敵連合の一人・荼毘の正体が轟家の長男・燈矢であることが明かされ、彼はエンデヴァーと焦凍の目の前で「赫灼熱拳」を使ってみせました。

 読者の中では「赫灼熱拳」という技そのものが「轟家の闇」の象徴となっているわけで、そんな中焦凍はその技で強敵を倒してくれたんです。これを「激アツ」と呼ばずになんと呼べばいいんですか。最高すぎました。

 

2-2-3.デクvsフレクト・ターン

 

 最終バトルも前述の二人に負けることのない迫力でした。

 個性のない社会を作ろうとしている思想団体「ヒューマライズ」の教祖であるフレクト・ターン自身が個性持ちというのが最高に皮肉ですが、彼の個性「リフレクト」があまりにも強すぎた。『WHM』先行特典として配布される『僕のヒーローアカデミア Vol.World Heroes』の中でその設定が明かされていますが、反射制御外骨格・アラクネ(要はサポートアイテム)で反射を応用して空中でも戦えるって、汎用性が高すぎる。

 

 インターン前後でのデクのOFA身体許容上限は45%(うろ覚え)なはずですが、それでもオールマイトの「スマッシュ」の半分近い威力の攻撃すら易々と跳ね返してしまう(しかも肉体へのキックバック等はなし)のはさすが劇場版のラスボスという風格。

 

 そして何より、このフレクト・ターンの「個性」、恐らくですがヒロアカ本編の最序盤・USJ編で登場した脳無のセルフオマージュだと思います(敵の攻撃を無力化している点で)。

 

 かつてオールマイトが倒した"敵"の上位互換とも言える個性を相手に苦戦するデク。

 いやそれはそうなんですよ。何せ相手はこちらの攻撃をノーリスクでフルオート反射できるので、デクがどれだけ速く動けても意味がない。

 

 これは余談ですが、「リフレクト」発動の瞬間にフレクトの背後に出るエフェクトがめちゃくちゃかっこよくて好きでした。ギュンッという感じがしたので(?)

 

2-3.デクの最後の技、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ワールド・スマッシュ」

 

 ジャンプ作品で「反射」や「吸収」「無力化」等の能力が出てきた時、その攻略方法は昔から一つと決まっています。

 

 相手の能力の上限を超える攻撃でぶっ飛ばす。

 

 シンプルにして王道、そして何より圧倒的主人公感のある倒し方。

 

 しかもそこに込められた演出があまりにもニクすぎる。

 

 全世界で奮闘するA組の面々が描かれたのちの「僕たちは諦めない言葉を知っている」「更に向こうへ!Plus Ultra!」というデクのセリフ。

 「ヒーローは守るものが多いんだよ」というかつてのAFO戦でオールマイトが残した名言と、その後を継ぐように「だから負けない!」とフレクトに向かっていくデク

 

 そして極めつけは、フレクトに放った最後の技、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ワールド・スマッシュ」

 これは紛れもなく、AFO戦でオールマイトが放った「ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュ」のオマージュであり、なおかつ「こちらの攻撃を無効化する敵に対して、その上限を超える攻撃を連続でぶつけ続ける」という、USJ編でオールマイトが脳無を倒す際に繰り出した技の合わせ技。

 

 あぁ、デクは今、オールマイトの全てを受け継いで目の前にいる"敵"を倒そうとしているんだ、というのが超絶作画とともに伝わってきて、僕はここで泣きました。いやまじで。

 この大技でフレクトを倒したデクは、彼が発動しようとしていた「個性因子誘発爆弾(イディオトリガーボム)」の停止に向かうことになるわけですが、このラストバトルの死闘感はジャンプアニメ映画でも屈指の迫力でした。全身全霊、全てを出し尽くして倒した、というのが伝わってくる。

 

2-4.ロディの「個性」、"魂"の演出

 

 本作の魅力を語る上では欠かすことのできないメインキャラ・ロディ

 最初は小生意気な小悪党としての側面が強く、デクに対して非協力的でしたが、徐々に心を開いて打ち解けるように。

 

 彼の「個性」が明らかになったのはデクvsフレクトの真っ只中。

 ロディの「個性」とは、「自分の本音が現れる鳥・ピノ」という一風変わったもの。劇場配布特典によればその個性名は「魂(ソウル)」らしく、恐らく彼の深層心理が体外で形作り、他人が視認できる形状になる、という個性だと思います。

 

 要するにロディは「口にする言葉が本音とは限らない」「嘘をつけない人物」として描かれており、そのことが分かった時僕はある描写を思い出しました。

 それはデクとの逃走中、逃げ込んだ廃屋っぽい建物での一幕。

 

 デクと運んできたアタッシュケースを、「弟と妹を助けてほしい」という理由で追ってきた"敵"に渡すロディですが、ここで「ロディの本音を語る鳥・ピノ」は、眠っているデクを起こすという行動に出ます。

 

 これがロディの本音だとすると、彼は本心では「デクに止めてほしかった」ということになりますが、弟と妹想いのロディの行動全てが嘘なのか、と言われるとそれは違う気がします。

 何故ならロディは自らの足で"敵"の元へ向かっているからで、これが丸々全部嘘というのは、ロディのキャラクターを考えても不思議でした。

 

 

 多分この時ロディは、「自分でもどうするのが正解なのか分からない状態」だったんじゃないでしょうか。

 だから「身体」は"敵"の元へ向かい、反面「心」はデクに助けを求めていた

 これまで常に「択一」の中でどちらかを選び取ってきたロディにとって、(家族と友達の)どちらかを捨てることなんてできなかったから、ああいうチグハグな行動が描かれたんじゃないかなと思うわけです。

 

2-5.デクとロディの対比

 

 だからこそ、物語を通して描かれるデクとロディの対比が光るわけです。

 デクは「笑顔でみんなを助けるヒーロー」としてのオールマイトに憧れたから、常に「全部」を助ける選択を模索している。

 それに対してロディは、これまでの厳しい生い立ちから、「何かを捨てて何かを得る」というトレードオフの人生を送り続けてきた。

 

 この二人が対として描かれ、そして最後にロディが「デクみたいになりたい」と思うようになるのは本当に泣ける。最後に空港で抱き合うシーンは、ピノの演出もあって泣きました。

 

 と同時に、これは「ヒーローに憧れる個性持ち」と「雑踏の中で毎日を必死に生きようとするただの個性持ち」の対比でもある気がしました。

 ヒロアカの世界に登場する多くの人は、「個性」それ自体は持っているけれど自らヒーローになろうとは思わない人たちです。日常生活の些細なところで「個性」を使い、大局的な判断が迫られる場面ではヒーローに任せて生きている。

 

 そんな「名もなき人々」は、普通「全てを守ろうと行動する」なんてできないんですよ。みんな自分のことが大好きで、それを第一に行動するから、突き詰めればその行動は「自分(と自分が守りたい人)以外の他者に害する」わけで、ロディ・ソウルという人物はそれを体現していたんじゃないかなと。

 

 そのロディが、デクと関わっていく中で徐々に変わっていく姿は、一人の「名もなき無個性」の僕にはグサグサ刺さりました。僕も、ちょっとでいいから「全部を守る行動」をしてみようかなとか思うくらいには。

 

3.気になった点

 

 と、ここまで大絶賛の嵐をお送りしたわけですが、一応個人的に気になった点も併せて書いておきます。あくまで僕個人が気になった点に過ぎませんし、これらをひっくるめても『WHM』は大傑作だと思っていますので、その点ご留意ください。

 

3-1.舞台を「世界」にした理由

 

 サブタイトルに「ワールドヒーローズミッション」と題されていますが、尺の8割近くがデクとその周辺にスポットライトを当てている関係上、世界各地に散らばった雄英高校生とプロヒーロー達の描写がかなり少なかったです。

 それでも見せ場はちょこっと描かれていたので全くの「無」というわけではありませんが、ほぼちょい役程度の出演だった感は否めません。

 

 この点を考えると、物語の舞台をわざわざ「全世界」に広げる必要はあったのか?というメタな疑問が浮かんでしまいました。

 これに対してメタ的に考察すると、「デク、爆豪、焦凍の3人が敵アジトで奮闘する」というラストの展開に繋げやすくするための舞台装置として側面が強いのでは、と。

 一応作中で描かれた思想団体「ヒューマライズ」は、その目的が「全世界の人類の救済」でしたので、その点で言えば舞台が日本や一ヵ国だけに留まらず「世界規模」になったのは分かりますが、じゃあそれが「ワールドヒーローズミッションだったのか」というと少しだけ引っかかるな、と。まぁ小魚の小骨くらいの違和感ですが。

 

3-2.始まりの唐突さ

 

 これは視点を変えれば良い点とも捉えることはできるんですが、あえて書くのであれば「いきなりドンパチするのはちょっと急じゃね?」という感覚も抱くな、と。

 

 僕はこういう「最初からジェットコースター」みたいな作品大好きなんですが、いきなり全世界規模でのミッションが始まって、その標的な全世界に支部を持つ思想団体です、と言われると、ライトファンの中には面食らう人もいるかもしれません。

 特に、「個性特異点」のくだりはやや説明口調だった気もしますね。まぁあれがないと物語への導入が始まらないので必要だとは思いますが。

 

4.考察

 

 既にこの時点で6000文字を超えているわけですが、分けて記事にするのもあれなので、一気に書き切ります。本作を観て感じた考察要素を軽くまとめてみました。

 

4-1.超常社会の上下関係と、「ヒューマライズ」内での上下関係の対比

 

 明示されてはいませんが、超常社会(≒ヒューマライズ外部の世界)での人間達の上下関係と、「ヒューマライズ」内での上下関係というのが対比になっているな、と感じました。

 

 超常社会というのは人類の8割が何かしらの「個性」を有した社会のことで、その根幹を支えているのは「国家による承認を受けたヒーロー」の存在です。

 言わば彼らが生きている世界では、「強い個性を持った人間」がその社会的地位を高めることができるのに対し、無個性/弱個性持ちの人はそれだけで不利に立たされるわけです。それこそ単行本1巻でオールマイトがデクに言った、「敵受け取り係なんて揶揄されちゃいるが警察も立派な仕事だ」というセリフがそれを象徴しています。あの世界では無個性達は冷遇されているわけです。

 

 反面、「ヒューマライズ」ではそれが逆転しています。

 団員の多くが銃火器を扱い、一般社会では明らかに「強個性」に分類されるであろう「アイアン・ボール」や「ロング・ボウ」といった個性を携えた"敵"達が、「私たちは選ばれた」「もう失敗は許されない」という発言をしています。

 これはつまり、「ヒューマライズ」内部での上下関係は、「個性持ち」が下、「無個性(≒"純粋な"人類)が上」という逆転構造になっているのではないでしょうか。

 もちろんトップに立っているフレクト・ターン本人は個性持ちですので、それが組織全体に綺麗に当てはまっているというわけではありませんが、少なくとも描写の端々を見るとそういった対比が演出されているな、と。

 

4-2.「ヒューマライズ」と「異形排斥集団(CRC)」の類似点

 

 ヒロアカ本編にも登場した「異形排斥集団(通称:CRC)」。

 彼らは個性の中でも特に「異形型」とされる個性持ちを排斥・迫害する活動を行なっており、敵連合の一人・スピナーもその被害者でした。

 彼らの思想を分解すると出てくるのは、彼が何かしらの形で「真の人類たり得る者」を信奉しているという点です。

 

 そしてそれは、「ヒューマライズ」にも当てはまります。彼らは「個性を持たない人間」こそが真に純粋な人類であると信じていたわけで、こうした類似点が非常に面白かったです。

 何故かというと、ヒロアカの世界では「人種差別」や「女性差別」というのはほとんど描かれていないのに対して、こうした組織や団体は存在しているからです。

 

 これは、僕たちが暮らしている世界では「人々や集団を識別する記号」として機能しているものが、ヒロアカの世界では別のものに置き換わっていることの証左ではないでしょうか。

 僕たちが「性別」や「人種」で自己と他者、強者と弱者を恣意的に判断しているように、「個性」が宿り「人としての枠組み」が再構築された世界では、「別の何か」を元にそれらが行われている、という可能性です。

 本編ではそれが「異形型」であり、本作ではそれが「個性持ち」なのではないでしょうか。

 

 「純粋で優れた人類」を信奉するその姿は、かつてアーリア人至上主義を掲げて多くのマイノリティを虐殺したナチスドイツを彷彿とするものがありますね。

 

5.終わりに

 

 考察を書き終えた時点で7000文字を超えていました。超大作すぎる。

 書きたいことを長々と書いていたらこんな文字数になってしまいましたが、よくよく考えたらブログなんてそんなものでしたね。

 

 僕は最低でもあと1回は本作を劇場で観ようと思っていますので、皆さんも足しげく劇場に通い詰めましょう。

 

 

 それではまた通常記事で。

 

 よしなに。