けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【感想】第150話_悲劇のヒロインか、冷酷な殺戮者か【呪術廻戦】

Hatena

 ども、けろです。

 前回の149話で実の妹を失い、天与呪縛者として覚醒するに至った真希。

 妹・真依から託された「全部壊して」という最期の願い。

 

 その言葉を胸に実の父・扇を両断し、向かう先はーーーー。

 

 

 というわけでやっていきましょう、呪術廻戦感想回です。

 

1.覚醒した真希の最後の迷い

 

 怒涛の勢いで登場した新キャラ、新設定の数々。

 蘭太という青年キャラに信朗という隊長。加えて「躯倶留隊」という一族内の組織に、その上位組織である「炳」と、1話の冒頭とは思えないほどの情報量です。

 おかげでやっと整理できていた家系図がさらにややこしくなってしまい、蘭太や信朗に関しては甚壱や直哉との関係性が明示されていないので本当にわからなくなってしまいました。いずれ明かされることに期待しましょう。

 

 

 躯倶留隊の面々に囲まれた真希は、頭の中で自問自答します。

 

ーどうすんの?

「どうしたかったんだろうな」

ーなんで一緒に落ちぶれてくれなかったの?

「そうだな。きっとそれが、私達の正解だったんだろうな」

 

「ごめん。ごめんな真依」

 

 真希が「それ(=真依と落ちぶれること)が正解だった」と独白していることからも、真希が真依とずっと一緒にいる道は、彼女達が揃って落ちぶれる以外に残されていませんでした。

 つまり真希は、今自分がしていることも、これから自分がしようとしていることも、そのどちらもが「間違ったこと」だと分かった上で、どうすべきなのか最後の最後まで決めあぐねているのではないでしょうか。

 

 そこに過った、妹の最期の言葉。

 

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*1

「約束だよ。

 

 全部、壊して」

 

 次のコマでは真希の見開かれた眼。血走ったその眼は、真希が「目醒め」たことの暗示か。

 どこかで見たことがあると思ったこの眼、単行本9巻の五条過去編にて、離反した夏油に対して五条が向けた眼光と似ていました。

 

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*2

 

 純然たる怒りに満ちた眼光。

 五条は夏油の離反に対する憤懣でしたが、真希は真依の最後の言葉を思い出し、吹っ切れたように見えました。

 

 一瞬で躯倶留隊の面々を鏖殺し、隊長の信朗の現着時には死体の山が築かれていました。

 

2.迎え撃つ最強の血族

 

 そこに現れたのは禪院蘭太、禪院甚壱、禪院長寿郎から成る躯倶留隊の上位組織「炳」

 物質の形状を変形させるような術式を用いる長寿郎と、獲物を構えた信朗を一瞬で両断した真希。ピンポイントで急所である首元を撃ち抜いているのがエグいです。

 

 蘭太の術式によって動きを封じられながらも力ずくでそれを突破し、迫る甚壱の拳を掻い潜り、次の瞬間にはその首を落としていました。

 

 

 強くね?

 

 

 いや確かに今の真希は天与呪縛が完成し、かつての禪院甚爾と同等の力を手に入れています。甚爾が覚醒前とはいえ六眼と無下限呪術持ちの五条と呪霊操術使いの夏油を倒していたので真希もそれに近い力を手に入れたのだろうとは思っていましたが、まさかこれほどまでに力の差があるとは。

 

 個人的に気になったのは蘭太の「今の禪院家が在るのは甚爾さんの気まぐれだ」という台詞。

 甚爾も家を出る際に何か揉めたのでしょうか。甚爾が家を出たのは単にグレたからではなく、何かしらの事情があった可能性もありそうですね。

 

 というか蘭太くん、見た目はめちゃくちゃ好青年だし術式もかっこいいし、発言からも「禪院家を守る」という気概を感じるのでここで使い捨てられるには惜しいキャラだと思いました。

 甚壱や信朗、扇達は物語の展開上退場してもまぁ納得できるんですけど、この好青年っぽい見た目で中身がクズとは思えないので……

 

3.相伝の無法者vs天与の暴君

 

 甚壱の首を池に投げ捨てるという蛮行に及んだ真希は、対峙した「炳」筆頭、直哉に問われます。

 

「人の心とかないんか?」

 

「あぁ、アイツが持ってっちまったからな」 

 

 ここめちゃくちゃ皮肉が効いてますよね。

 当の直哉本人が、人を人とも思わない差別的な発言を繰り返していたし、かつて真希を虐げていた存在なので、そんな直哉が「人の心」を説くのはなんの冗談かと思ってしまいます。

 

 それに対する真希の返しも秀逸。

 「アイツ」とは真依のことを指していますが、これが何を意味しているのか。

 

 真依が真希の「人の心」を持っていったということは、真依がいたから真希は人の心を持つことができた、と言い換えることができます。

 悲惨な境遇にも、恵まれない状況にも腐ることなく前を向いて歩むことができたのは、ひとえに真依という妹の存在があったからで、時には煽りや皮肉を投げていたりもしましたが、真希は心の中では「真依の居場所を守ること」を目標にしていました。

 

 だから真希は術師でい続けることができたし、一族を恨みこそすれど直接手を下すことはしてこなかった。

 

 そんな真依はもういない。呪具を託して逝ってしまった。

 真希にとって唯一の支えであり救いだった妹を失った今、真希が失うものはもうないし、真っ当であり続ける理由もなくなってしまったわけです。

 

 だから真希は、五条も選ばなかった「腐ったみかんの駆逐」を選んでしまった。そうすることで失われるものが、もうないから。

 

 

 人の心を持たない相伝の荒くれ者・直哉と、人の心を棄て天与の暴君となった真希。

 

 

 編集のアオリが告げる「持たざる者」とは、果たしてどちらのことなのか。

 

 

 というよりここまで目立った活躍もなく、脹相お兄ちゃんに負けてゲロを吐き、挙げ句の果てに年下の乙骨に治癒してもらっただけの直哉くん、これもう完全に退場ルートに突入してませんか?

 確かに投射呪法は強いけど、その底は直毘人で知ってしまったし、そんな直哉が甚爾クラスに成った真希相手に勝てる未来が見えないんですが。なんなら今後の展開をメタ的に考えた時に真希が負けるとも考えられないんですが。

 

 

 僕は直哉みたいな憎まれ二枚目キャラが大好きなので退場してほしくないんですが、散るなら盛大に散ってほしいですね。南無。

 

4.真希の行動の是非

 

 さて、少し話は逸れますが、ここで真希の取った行動について考えてみましょう。

 

 果たして真希の行動は「正しい」と言えるのでしょうか。

 読者目線で見れば、今まで虐げてきた一族に持たざる者が逆襲するというカタルシスがあるんですが、彼女の行為はこれまでの呪術廻戦のキャラクターたちの行動と照らし合わせても褒められたものではありません。

 

 最強の術師・五条は、全てを破壊してリセットできるだけの力を持ちながらも、「それじゃあ何も変わらない」と理解し、後進を育てるという長い道を選択しました。

 

 それをバッサリ斬り捨ててしまうかのように、真希は一族の人間を皆殺しにしてしまった。

 

 一連の行為を「正当防衛」だという声を見かけましたが、個人的にはそれも少し違うかなと思っています。

 

 というのも正当防衛は「相手の命を奪う以外の方法で、自己の命を守ることができないという喫緊の状況下」でのみ成立するからです。

 真希は、自らを斬り捨てた扇の背中を自分の足で追いかけ、自らの手で彼を殺しています。

 

 この時点で真希は明確な「殺人者」であり、その後も彼女は逃げることをせず、真っ向から禪院家の人間を斬殺していきます。

 仮に扇の殺害が正当防衛だったのだとしても、その後の彼女の行動は紛れもなく「真希の意思」によるものであり、彼女は自らの手で「人を殺すこと」を選択してしまったわけです。

 

 

 呪術廻戦の物語において、「罪」を犯したキャラクターにはその後何かしらの形で「罰」が与えられています。

 呪術高専から離反し、非術師の多くを手にかけた夏油傑は、0巻にて乙骨に敗れ、五条の手によって殺されました。

 吉野順平は自分を虐めていた同級生達に達に復讐するという私怨に走り、真人の無為転変により死にましたし、術師殺しとして生計を立てていた甚爾も五条によって命を奪われています。

 

 「罪と罰」の天秤はこれまでの物語ではっきりと描かれていて、たとえそのキャラクターに同情できる何かしらの理由があったとしても、「行動の結果」に対する責任は何かしらの形で降りかかっています。

 

 

 真希は、一線を超えてしまった。罪と罰の天秤を、自分の手で傾けてしまった

 

 であるならその天秤は、同質同量の「罰」によって裁かれなければいけないのではないか。

 と、僕は思うわけです。真希というキャラクターも、呪術廻戦という作品が紡ぐ世界観も大好きだからこそ、真希はどこかのタイミングで死ななければ美しくないのかな、と。

 

 真希に死んでほしいという積極的な理由があるわけではなくて、むしろ「死ぬ以外に彼女の犯した罪が雪がれることはない」からこそ、彼女の最後は「死」が相応しいのではないか、と。

 

 

 

 

 と、取り止めのないことをつらつらと書いてしまいました。

 真希にまつわる解釈に関しては後日しっかりとまとめたものを書きたいと思います。

 

 

 

 それではまた。

 

 

 直哉くん死なないで。

*1:引用:芥見下々『呪術廻戦』「週刊少年ジャンプ」集英社

*2:引用:芥見下々『呪術廻戦』第9巻、p155、集英社