けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【感想】読切_17歳が描く命と情の物語【ミーシア】

Hatena

 ども、けろです。

 日課となっているジャンプ+徘徊をしていたところ、これまたとんでもない読切に出会えたので感想を交えつつ紹介します。

 無料で読めるので未読の方はぜひ読んでみてください。

 

 

0.はじめに

 

 今回紹介兼感想を書くのは、『ミーシア』という読切作品です。

 作者は吉野マト。アオリにも書かれている通り、なんと17歳だそうです。作者のSNSを見てみたところ受験生云々という話をされていたのでまじでびっくりしました。

 僕自身もう20代半ばなわけですが、遂に一回り年下の作家さんが活躍されるんだなぁと。こう書くと上から目線っぽくなってしまいますが、単に「すげぇなぁ。才能だなぁ」というだけの感想です。

 

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shonenjumpplus.com

 

1.淡々と紡がれる序盤の一時〜「仕事」としての殺人〜

 

 物語は神の子ども「ミーシア」が罪人を裁く仕事を父親(=神様?)から命じられるところから始まります。世界観に関する設定はあまり展開されていなかったので考察兼推察をすると、この世界での神というのは世界の調整者であり、罪人という(他人の命を奪ったり社会を不安定にする)阻害要因を取り除くことで世界をより良くしようとしているのかなと。

 作中最後には裁かれた子が転生しているシーンもあったので、単なる地獄送りとかそういった類ではなく、魂の循環のサポートということなのかなと思います。

 

 父との会話から以前もこの仕事をしていたことが分かり、気だるそうなミーシア。

 彼女が下界を見下ろして放った「人間なんてさっさと滅んじゃえばいいのよ」という台詞、覚えておいてください。

 

 

 下界に降りた彼女が出向いた家では父親と思しき男が息子を虐待していました。

 自分の指から滴る血が相手の口に入った瞬間、崩れ落ちる男。

 

 テレビで流れていた連続変死事件の報道を見て「これ…テレビのって…(君がやったの?)」と訊ねる少年に、「私のことね」と返すミーシア。すると少年は「俺も連れてってくんない?」とまさかの要求。ミーシアは少し逡巡する様子を見せるも、それを承諾。二人は世界を回りながらリストに載っている罪人たちを殺して回ることに。

 

 物語の導入から序盤にかけてはかなりスムーズで、そこからの展開もいい意味で淡々としていました。

 変死死体と様々な都市の色々な季節の風景が淡々と描写され、あくまで二人が「仕事の一環」として人を殺して回っていることがわかります。そしてそれを二人とも「楽しんでいた」ことも。

 殺人という他人には言えない秘め事を共有しているという事実が、二人をそういう気分にさせたのでしょうか。そう考えると殺人というのは、この世で最も尊くも歪んだ秘め事なのかもしれませんね。

 

2.温かさに触れるミーシア〜「葛藤」に揺られた殺人〜

 

 そんなミーシアと少年ユウマですが、5年経ったある日ドイツ(?)の市街で"Haben sie eine Minute?(ちょっと時間ある?)"と声をかけられ、ひょんなことからヨーゼフという男の宿で住み込みのバイトをすることに。

 

 このヨーゼフという男、実は偽名で本名はリュディガー・フライリヒラート(かっちょいい)、リストに名前の載っている男でした。

 彼は若い頃「悪さ」をしていたようで、その過程で人を殺したり人身売買をしたりしていたようです。彼のいう「手出しちゃいけないもんに手出した」というのは、恐らくマフィア等の裏組織の人間に手を出してしまったということでしょう。個人対組織では勝てるはずもなく、彼の娘がその報復の対象になってしまった、と。

 まぁ因果応報と言ってしまえばそれまでですね。

 

 そして今度は、ミーシアがその「応報」を与えにきた。これはもう人間同士の復讐、やったやられたという「私怨」ではなく、神の視座から見た「罪と罰」と捉えるべきでしょう。

 

 お世話になった人だからといって見逃したりはせずきちんと手を下すあたり「神の子としての使命」を全うしているようですが、その表情は浮かばれない様子。

 血の海を見ても平然と「ヨーゼフさんリスト入ってたの」と口にするユウマと、弱々くしく「うん…」と返すミーシア。ユウマの人格形成がいつ頃から歪んでいたのかはさておき、こういう形で「人間」と「神の子」のポジションが入れ替わっているのはニクい演出ですね。

 

 親しくなった人間を殺したことで、ミーシアは初めて「自分が奪った命にはそれぞれの人生があった」ことを悟ったよう。それが良いことなのか悪いことなのかは、僕のような小さな人間にはわかりません。

 

3.ターゲットから大切な人へ〜「愛情」が混じった殺人〜

 

 ミーシアの最後のターゲットは、ユウマでした。

 「最初はほんとにただの暇つぶしだった」というミーシアのモノローグからわかるように、ユウマは最初から殺しのリストに入っていたんでしょう。

 作中ではリストに入っていた理由というのは明確には描かれていません。一見すると彼は父親から虐待を受け、学校ではいじめを受ける被害者ですから、救われこそすれ裁かれる理由が見当たりません。

 が、人というのは表に見えるものが全てではないし、むしろ表にしていない部分にこそその人の本性があったりします。

 親子セットで殺しの対象だったからには、ユウマ親子が何かしら"他人には言えないこと"をしていたんだろうなぁと。それが何かまではわかりませんが。

 

 

 飲み物に血液を混入しているのがユウマにバレ、乱闘の末にベッドに組み伏せられたユウマ。

 隠し持っていたナイフで心臓を一突きにされ、死の間際に口づけをするミーシア。文字通り死を齎すキスにより絶命するユウマと、後を追うように息たえる神の子。

 

 最後のカラー、ユウマとミーシアの生まれ変わりが新幹線のホームで出会うシーンで終わっていたのがとてもよかったです。二人とも死んでバッドエンドではなく、きちんと希望のある終わり方をしていて。

 

 何よりユウマを殺したのがミーシアの「キス」というのがめちゃくちゃ良くないですか。

 キスというのは通常愛情表現として使われるもので、一定以上の関係性でしか成立しないスキンシップです。

 それが「殺し」のツールとして使われるというのは、ミーシアにとってユウマは殺しの対象であると同時に好意の対象だったのだなと。

 「仕事」と「情」の間で揺れ動いた結果、その両方を「キス」で果たしたというのは、切なさを感じずにはいられません。

 しかも物語の冒頭で「人間なんてさっさと滅んじゃえばいい」と人間に対して否定的だったミーシアが、人間を想いながら死んでいくというのも、ベタかもしれませんが最高にエモい展開です。

 

 というかこの描写を17歳が描いたっていう事実がもうすごすぎる。僕は年齢で云々評価をする世の中が割と嫌いなんですが、これに関しては本当にすごい。

 絵のタッチは藤本タツキ先生みがあり、カラーには宇佐崎しろ先生っぽさもある。こういうと悪く言っているように捉えられがちですが、歴代の漫画家たちもその時流においてカルチャーの中心にあった漫画やコンテンツに影響を受けていますから全然悪いことじゃありません。むしろ時代の進歩というか、エンタメというのが今後も連綿と続いていくだろうという希望のようなものすら感じました。

 

 

 個人的にこの作家さんの絵のタッチやモノローグの描き方がめちゃくちゃ好きなので、ぜひこれからも作家活動を続けていってほしいなと思います。

 

 

 今後も読切とか気になる作品があったらこうして取り上げていきます。

 

 

 それではまた。

 

 よしなに。