けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【解説】産土神信仰とは何なのか【呪術廻戦】

Hatena

 ども、けろです。

 今回は作中でその単語が一度出たきりの設定、「産土神信仰」についての解説回です。

 僕自身調べながらの解説になりますので不十分な箇所もあるとは思いますが、呪術廻戦読者の皆さんに分かりやすく説明できるよう心がけたので温かい目で読んでいってください。

 

0.はじめに〜灰原の命を奪った呪霊〜

 

 作中で登場したのは第9巻のワンシーン。任務から帰投し、傷だらけの七海が級友・灰原の遺体の前で苦虫を噛み潰すように言い洩らすこのコマです。

 

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 これ以降「産土神」という単語は出てきませんし、特におまけページでの説明もありませんでした。唯一あったのは七海の「アレは土地神でした」という発言。

 

 ここで何となくぼんやりと「ああ土地神なのか」といったイメージを持って読み進めた方が多いと思います(僕もそうでした)。

 恐らく『結界師』を読了している方だと「土地神」という単語を難なく理解できると思いますが、そうでなければなんとなく漠然としたイメージのまま、という場合もあるのではないでしょうか。

 

1.産土神とは何なのか

 

 ではそもそもの「産土神」とはなんなのか。

 例の如く勉強の強い味方、wikipedia大先生のお力を借りましょう。

 

産土神は、神道において、その者が生まれた土地の守護神を指す[1]。その者を生まれる前から死んだ後まで守護する神とされており、他所に移住しても一生を通じ守護してくれると信じられている[1]。産土神への信仰を産土信仰という。

産土神 - Wikipedia

 

 生まれた土地に住まう神、つまり土地神のことを神道では「産土神」と呼称するようです。

 ここで大事になってくるのは、地縁、つまり住む土地に基づく縁故関係がこの信仰のベースになっているという点です。

 というのも昔の人々は生まれたとちから動くことはほとんどなく、誰もが生まれた村・地域で一生を過ごすことが当たり前でした。

 その土地で生まれ、育ち、結婚や仕事等のライフステージを同じ土地で過ごす、という過程の中で生まれたのが、「人々の日々の営みを見守ってくれる神様」としての産土神です。

 

 同じ土地・地域で生まれた人々が、共通の信仰対象として祀る神が産土神ということになります。

 これと対になるのが、次項で説明する「氏神」です。

 

2.氏神との違い

 

 この氏神、現代では上述の産土神と同様の意味で用いられ、「今あなたが住んでいる地域を守る神様」のことを指すそうです。

 ただ本来の意味はそうではなく、その名の通り「同じ氏族の守り神」という意味を持つ神様でした。

 これは同じ苗字、つまり親戚等の血縁関係をベースとした信仰のことで、それぞれの氏が祖先を神社に祀ることで神とする。それが「氏神」の本来の意味です。

 

 例えば藤原氏の氏神は春日大社源氏の氏神は八幡神社といった風に、それぞれの氏・血縁を重んじて祀られた神のことですね。

 

 産土神と氏神の違いは、信仰のベースが「土地」であるか「血縁」であるかです。

 昔の庶民は正式に苗字を名乗ることができなかったので、共通の氏というものを信仰の対象にしづらかったという背景があります。従って庶民の間でその土地由来の信仰としての産土神信仰が広まっていった、ということですね。

 

 ただ、近代化していくに従って人々は苗字を持ち、往来もより流動化していきました。その流れで徐々に氏神と産土神の意味するところが混ざり合い、現在ではほぼ同じ意味を持つようになった、ということです。

 

3.呪術廻戦における産土神とは

 

 では翻って呪術廻戦における産土神について考えてみましょう。

 七海が産土神に遭遇したのは作中の時間軸でおよそ2006年頃。この時点で人の往来はとても流動的ですから、これは都市部での話ではなさそうです(都市部では"神様"を共通化したイメージとして持つことが難しいからです)。

 

 であるなら人の移動が少なく、閉鎖的なコミュニティ、田舎部で発生した呪いであると考えるのが正確でしょうか。

 

 田舎における神様、というとイメージがしづらいかもしれませんが、寺社仏閣等の神聖な場所・空間に対する祈りや願いをベースにすれば分かりやすいかもしれません。

 

 例えば豊作を天に祈ったり、子供や家族の健康を願ったり、あるいは伝承としての「〇〇様」を子供たちに伝えたり(『ひぐらしのなく頃に』のオヤシロ様とかですね)。子供を躾けるときに親が「悪い子にしてると○○様が罰与えるよ!」と叱ったりする光景を思い浮かべてください。

 

 閉鎖的な空間における、共通化された"神としてのイメージ"と、それに向けられる"人々の想い"。これが綺麗なものだけならいいでしょうが、誰かに対する恨みであったり自然に対する畏怖であったりした場合、これらの負の感情は転じて呪霊に変化します(特級呪霊・花御と似た成り立ちです)。

 

 こうした流れで生まれるのが、「産土神信仰」としての呪霊なのかなと思われます。

 そこに住む人々のイメージが折り重なって生まれた呪霊なんだからそりゃ強いわっていう。

 一応作中では、「都会と田舎じゃ呪いのレベルが違う」と明言されていますが、それは下級呪霊の話で、こうした土地神クラスの呪霊に関しては別なのだと思われます。

 

 

 現時点での情報から推察できるのはこの辺りまででしょうか。

 呪術廻戦には私たちには聞き馴染みのない単語がちょくちょく登場しますから、これからもこうして解説記事等を書いていこうと思います。

 

 それではまた。

 

 よしなに。

 

*1:引用:芥見下々『呪術廻戦』第9巻、集英社、p141