けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【考察】ヒロアカ世界における軍隊の位置付け【僕のヒーローアカデミア】

Hatena

 ども、けろです。

 今回はタイトルにある通り、満を辞しての初ヒロアカ回です。

 別に古参アピールではないんですが、一応ヒロアカは連載開始の2014年から読んでいますし単行本も全巻集めています。アニメも全部見ているので、割とコアなファンだと思ってはいます()。

 ただ、既刊が既に30巻近いこと、劇場版2作とスピンオフ作品も展開されていることを踏まえると、今から考察記事を取り上げるには膨大な量になりそうだなという懸念から、ちょっと取り上げるのを躊躇していました。

 

 まぁ展開考察等は既に様々な考察者の方がしてくださっているので、僕は少し変わり種というか、「作品」という「一つの世界」の大枠を、作中描写から読み解いていこうという感じでいこうと思います。呪術廻戦とかでもよくやっているやつですね。

 もちろん機会があれば今後の展開考察とか、伏線考察とかもやっていこうとは考えていますが。

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 それでは前置きが少し長くなりましたが、以下目次です。

0.はじめに

 ヒロアカを読み進めているときに、ふと気づいたことがありました。

 あの世界、警察や消防といった治安維持機構や公的サービスは存在しているのに、軍隊/自衛隊/国防軍といった、国家の安全保障に関わる組織や機構が一切出てこないんですよ。

 というのもヒロアカの世界というのは、ヒーローが公職としての地位を確立しており、その中で様々な職務をこなしています。発生した敵の捕獲から、街のパトロール、市民の依頼遂行等、かなり多岐に渡ります。

 加えてこのヒーローの活動の源になっているのは、当然ですが彼ら個人の"個性"です。この"個性"、使い方によってはいくらでも悪用や転用が可能な代物で、免許制度等で制御しないと国という枠組みを守ることすらできなくなります。

 例えば主人公デクのクラスメイト八百万の個性"創造"は物理法則を無視してあらゆる物質を生成することが可能なので、特訓次第では爆発物や毒薬なんかをいつでもどこでも作り出せます。そこには防犯や水際対策の入り込む余地はなく、金属探知機や液体物チェックなんかも余裕で素通りできる最強のテロリストになれるわけです。

 他にも放電系の個性持ちであれば電力のない場所での給電を行えますし、葉隠のような"透明化"の個性であれば奇襲闇討ち暗殺なんでもありです。

 

 要はヒロアカ世界でのテロリストや軍事活動というのは、我々の(国や研究機関等の大規模な財源・人的リソースを必要とする)世界のそれとは根本から異なる可能性が高いわけです。

 ではなぜあの世界で(特に直近の最新話で国が傾くほどの打撃を受けてなお)自衛隊のような組織が出てこないのか、それを検証していきましょう。

 

1.現在のヒーロー社会〜死柄木、オール・フォー・ワンによる混沌を経て〜

1-1.瓦解した前提

 まずその前提となる現在のヒーロー社会を考えます。

 コミックス最新29巻、並びにその続きであるジャンプ最新号の方では、死柄木やオール・フォー・ワンらの手により社会が壊滅的な打撃を受けました。

 特に大きかったのは、(ビルボードチャートに載るような大物を含む)ヒーローの大量離職です。自身にとってヒーローであることのメリットよりも、今後ヒーローを続けるにあたってのデメリットの方が大きいと判断したヒーローがその職を降りることが多発しています。

 

 そもそも彼らがヒーローになった理由そのものが、人助けや奉仕精神といった利他主義ではなく、個性を使ってお金を稼ぎたい・ほどほどの名声を集めたいといった利己主義的理由でしたから、その"ほどほどの活動"を続けるための土台となる社会が根本からひっくり返ったのであれば辞めるのも当然な気がします。

1-2.自警団の隆盛

 その結果として何が起こるかと言えば、ヒーローによる治安維持というインフラを失った市民による自警団の結成です。

 もちろんこの世界にも警察はいるはずなのに、それを待たずして市民たちが武装蜂起し、敵に対して自ら立ち向かう選択をしたわけです。

 当然この行為自体は(免許を取っていないので)違法ですし、周囲の建物や一般人に被害を与えている点からも器物損壊や傷害の罪に問われます。にも関わらず自らが武器を手にした理由としては、1.警察の規模が現代社会に対応していない、2.警察そのものが信頼できない、の2点が仮説として考えられます。

1-2-1.警察の規模感

 いつだったかオールマイトが前線を退いた際に、警察内部の様子が描写され、その中で「我々も改革の必要がある」等の発言がされていました。

 これ、単にヒーロー達との不均衡な関係性の是正と読むこともできますが、ヒーローという社会装置に依存する警察機構そのものの改変と捉えることもできます。そもそもヒーローが敵発生の抑止・発生時の鎮圧を担っている社会で、警察の組織としての必要性はかなり薄くなってしまいます。

 ヒーロー免許取得者が増えるにつれ、事務所を立ち上げて活動するヒーローが増える。そうするとますます治安維持要員は増えるので飽和状態になりますし、その状況下で市民は「警察が必要」と思えるのでしょうか。

 警察機構そのものの縮小を訴える政治家に投票するかもしれませんし、そうでなくても国会内の予算案決議の段階で警察組織全体への予算が削減されるかもしれませんよね。

 そうなると警察は人員を削減するし、交番等の数も減らすはずです。結果として今回のような有事の際に対処にあたる人員が足りなくなる可能性は大いにあります。

 

1-2-2.警察への信頼

 これもまた、市民が自ら武装する理由たり得ます。ヒロアカの世界では警察はかなり弱い立場というか、どうにもヒーローという存在が大きく取り沙汰されるようになってからはあまりいい評価されていません。

 例えば1巻第1話、デクとかっちゃんがヘドロ敵に襲われるエピソードの中でも、彼らを助けたのはオールマイトという"個人"であり、"組織"としての警察はオールマイトが捕えた敵を"引き取る"立場でした。

 これはあくまで一例でしかありませんが、これが社会全体に常態化するとどうでしょうか。困っている人を助けるヒーローと、その恩恵に預かる警察。市民がどちらを信頼するようになるかは火を見るより明らかな気がします。

 

 つまり何が言いたいかというと、ヒロアカの世界はヒーローという"個人"に社会的権力や信頼を置く、極めて属人化が進んだ世界ということになります。

 社会という枠組みそのものの構成要件の根本的な違い、これを念頭に置いてもらえれば次項以降の理解が早いと思います。

 

2.ヒーローの公的・社会的立ち位置と、公的機構の関係

2-1.個性使用許可の免許制度

 先ほどヒロアカの世界は権力の属人化が進んでいると述べましたが、その最たる例が「個性使用の免許化」になります。

 専門のカリキュラムを受け、講習と試験を乗り越えて初めて"公的空間での個性使用許可"、つまり"ヒーローライセンス"が付与されるようになります。

 もちろん、単にこれが国家による治安維持の方法として最もシンプルかつ効率的だと考えることもできますが、他にも方法はあったはずです。

 特に、使用許可を与える際にそれを"個人ベース"で与えるのではなく、国や地方自治体による組織的な管理も、選択肢としてあったはずです。 

 例を挙げるなら、車の運転免許が前者警察官に対する銃の携帯・使用許可が後者です。"力"を管理する主体を誰に置くのか、という違いですね。

 

2-2.「敵受け取り係」としての警察機構

 "個性"という極めて個人的な身体能力を有した者が次々とヒーローを志す世界というのは、前述の通り治安維持の前提が個人に委ねられる世界です。そこにあるのは根拠に乏しい信頼感であったり、なんとなくという薄い理由だったりします。

 現代社会に置き換えて考えるなら、警察の一切が存在せず、全てが民間の警備会社に委託されていると言えば、この不気味さがわかるでしょうか。

 結果として警察は"組織"としての権力性を失い、「敵受け取り係」と揶揄されるまでになりました。

 

 当然と言えば当然の帰結かもしれませんね。強い個性を持った個人というのは、警察に所属するよりもヒーローとして個人活動を続けた方が富も名声も獲得できますから。 

 

3.軍隊・国防軍自衛隊の必要論

3-1.属人化が進んだ社会での「組織」としての必要性

 では本題となる軍隊等の安全保障機構についてです。

 これが登場していない理由として一番シンプルというかメタ的な理由は、単に「登場させると物語の風呂敷・裾野が広がりすぎて回収が難しくなるから」だと思いますが、それを言ってしまっては考察もへったくれもないのでここでは置いておきます。 

 

 前項までで僕は再三、ヒロアカ世界は権力の属人化が進んでいると述べました。

 これが軍隊にも当てはまるとしたらどうでしょう。

 画一化されたトレーニングで軍人10人を送り出すよりも、1個人が個性を使ってヒーロー活動をする方が、短期的に見れば効率が良いでしょう。

 高い研究・開発費を投じて次世代の軍事兵器を開発するよりも、優秀な個性を持ったヒーローに委託した方がコスパが良いはずです。

 災害時の救助・救援活動に関しても、それ専門のヒーローが事務所を立ち上げていれば事足りますし、どこまでいっても"組織"としての軍隊を国家が保有する必要性というのは薄れていくわけです。

 これを以て「軍隊等は全く存在していない」とするか「存在はするが、警察機構のように規模が我々の世界と比べて著しく小さい」とするかは人によると思いますが、僕個人としては後者だと思っています。その方が現実的なので。

 

3-2."個性"の軍事利用の可能性

  となると一つの可能性が浮上してきます。

 "個性"の軍事利用の可能性です。前述の通り"個性"というのは千差万別で、使い方によってはこれまでの軍事活動のあり方を根底から覆してしまうからです。

 それを専門とする個人がいても、僕としてはなんら不思議ではありません。現実世界でも民間軍事会社というのは存在していますから、それと似た組織・事務所を個人のヒーローが持っていてもおかしくないですよね。

 

 ただ、これを突き詰めると人造個性や個性の複製等、人体実験の域に踏み込む可能性も出てきますから、これらが国際法で禁止されている可能性もありますね。

 

 

 最後になりますが、話をまとめます。

 ヒロアカの世界というのは"個性"によって権力・力の属人化が進んだ世界であり、その作中で軍隊・自衛隊等が描写されないのは、"組織"としての制度設計がされてこなかったから。

  以上が僕個人が考察する、ヒロアカの世界で軍隊等が登場しない理由でした。

 逆に今後、"個性軍"のようなものが出てくると面白くなりそうですね。アメリカのヒーロー参戦も仄めかされていますし。

 

 

 それではまた。

 

 よしなに。