けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【感想】第302話_罪を背負って前に進む家族【僕のヒーローアカデミア】

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 ども、けろです。

 最近のジャンプ、ちょっとしんどい展開が多すぎませんかね。

 少し前はチェンソーマンも連載されていたことを考えると幾分マイルドになったのかもしれませんが、それでも読者のメンタルが毎週ゴリゴリ削られていきます。

 その筆頭を突っ走っているのが呪術廻戦と僕のヒーローアカデミアなわけですが、個人的にはヒロアカのどろりとしたリアルな人間模様もめちゃくちゃ好きです。今まで冷徹なだけだと思っていたエンデヴァーに人間臭い側面があった話とか、読んでいてどんどん感情移入できるので最高です。

 

 というわけで少し遅くなりましたが、ヒロアカのジャンプ最新12号第302話の感想を書いていきます。

 以下目次です。

 

1.誰もが燈矢を「見なかった」結末

 先週、「少し違和感がありますね」と書きましたが、今週でそれを一気に回収してくれました。かなり綺麗に収まったんじゃないかと思っています。

 確かに燈矢を追い込んだ原因を作ったのは「オールマイトを超えるヒーローを作る」という野望を抱いたエンデヴァーの自己中心的な行動でした。彼が歪んだ野心を燃やさなければ冷を妻として迎え入れて個性婚をすることも、燈矢に稽古をつけることもなかったはずだからです。

 ただ、燈矢が「歪んだきっかけ」はエンデヴァーであっても、「歪み続けた道のり」を作ってしまったのは轟家全員の咎なんだなぁと。

 

 冬美は激昂する父の言葉に耳を塞ぎ、夏雄は枕元で助けを求めて泣きつく燈矢に対して「たまには姉ちゃんとこで言ったら…?」と取り合おうとしなかった。母・冷も、訓練に出かけようとした燈矢に「だから俺が生まれたんだろ…!? お母さんも加担してんだよ」と罵られ、返す言葉を失ってしまった。

 きっと誰かがどこかで行動していれば、燈矢の歪みと真っ直ぐ向き合ってさえいれば、彼の歪みの連鎖を断ち切ることができたかもしれない。荼毘は生まれずに済んだかもしれないのかなぁと。そう考えると途端にしんどくなります。

 

 そして何より、母を睨みつける燈矢の狂気に満ちた瞳は、かつて他人を顧みず覇道を歩もうとしたエンデヴァーと同じ形をしていた。エンデヴァーが生んだ子が、エンデヴァーのせいで狂気の道を歩んでしまったんだなぁと。ちょっとしんどさが天元突破しそう。

 

 せめて、燈矢が蒼い炎を発現させ、「お父さん、今度の休み、瀬古杜岳にきてよ」と懇願してきた時、彼と向き合って出向いていれば……

 燈矢が涙を浮かべながら言った「俺をつくって良かったって思うから!」は、彼の心の底からの助けで、彼が自分自身の存在理由の欠片をようやく見つけた喜びからくるものだったんだなと。

 というか、13歳の子供が「俺をつくってよかったって思うから」って父に言うって、本当に追い詰められてなきゃ起こり得ないと思うんですよ。

 

 この台詞って、裏を返すと「俺は俺なりに頑張ってきたんだよ。だからお父さんにも見てほしい。俺をつくって良かったって"思わせる"から」っていう燈矢なりの努力の表明であって、彼にできる最大限の親への甘え方だったんじゃないかと思うんです。親の期待に応えたい。応えることが自分が生まれてきた意味の体現で、それを忘れてしまったら自分が自分じゃなくなってしまう。

 父・エンデヴァーが焦凍に傾倒して自分を見てくれなくなって、自分が生まれた理由が分からなくなっていた燈矢が、それでも父に振り向いてほしくてもがき苦しんだ結果生まれた、蒼い炎。

 山中で一人うずくまる燈矢の元を訪れる者はなく、結果として燈矢を包み込んだのは父が彼に与えた"炎"の個性。エンデヴァーの炎が息子を焼いたわけで、そりゃ荼毘が生まれてもおかしくないですよね。炎から生まれた息子は、今その炎に包まれて"敵"になった。

 

 今まで荼毘のことは狂った敵の一人としか思ってなかったし、燈矢であったとしてもそれは彼個人が勝手に恨んでいるだけなのだろうとか頭の端っこで考えていました。

 こういう過去編のおかげで荼毘というキャラクターの重みが増した気がするし、親子の対決の確執がより深まりましたね。今後が楽しみです。

 

2.体育祭でデクがもたらした転換点

 燈矢が「死亡」したせいでエンデヴァーは狂気の道を歩み始め、焦凍は父への憎悪を燃やすほどの歪んだ成長をしてしまいました。これ自体は体育祭編前後での彼の描写を見ればわかると思います。

 父の「炎」を憎むというのは、奇しくも燈矢と同じなんですよね。兄が己の存在理由が分からなくなってしまったのがエンデヴァーの炎であるのと同様に、焦凍自身も母を追い詰めた父の炎を心から憎んでいた。

 

 そんな焦凍を救ったのは、他でもない主人公・デクでした。己の体に宿った父の炎を恨む焦凍に、デクは「君の力じゃないか」と声をかけた。それをきっかけに自分がヒーローを志した幼少期を思い出し、自分の中にある父由来の個性とも向き合うことを選んだ焦凍。

 この対比が見事だなぁと思いました。デクの救いがなければ、焦凍は燈矢と同じ歪み方をしたかもしれなかったからです。炎の燈矢と氷の焦凍、でも焦凍はクラスメイトであるデクに救われた一方で、燈矢は心を開ける友人を作れず、一人で闇に堕ちていった。

 

 デクに救われた焦凍が、荼毘となってしまった燈矢を救うかもしれない、そう考えると熱いですね。まぁ荼毘は既に多くの人間の命を奪っていますから、ハッピーエンドでないことはほぼ確定していますが、それでも彼らなりの精算の付け方があればな、と思っています。

 

3.荼毘に立ち向かう「轟家」

 母・冷の言葉が何よりも深く、これからの轟家の行く末を暗示していたように思います。

 

責任はあなただけのものじゃない。今回のことは私たち全員の責任。

心が砕けても私たちが立たせます。あなたは荼毘と戦うしかないの。 

 

 戦ってください、戦ってほしい、ではなく、「戦うしかない」。彼女は自分たちの抱える罪を分かっているからこそ、夫であるエンデヴァーにそれを伝える役割を果たそうとしている。

 焦凍がエンデヴァーに差し伸べた右手は、母・冷の"氷結"の個性が宿った手。その手を以てして「皆で燈矢兄を止めに行こう」と声をかける構図は、もうめちゃくちゃ震えました。燈矢に宿ったエンデヴァーの"炎"だけじゃなく、母の"氷"も加える。そうして初めて"皆で止める"ことができるんだなぁと。

 

 折れたと思っていたエンデヴァーも復活の兆しを見せてくれましたし、次週以降の新章がますます楽しみになってきましたね。

 

 

 それではこの辺で。

 

 よしなに。