けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【考察】七つの大罪と童話竜【BURN THE WITCH】

Hatena

 

 ども、けろです。

 ブログ立ち上げから今まで、主に呪術廻戦の考察・感想記事をメインに投稿してきましたが、そもそも僕の厨二病の原点は(芥見先生が影響を受けた作品と同じ)久保帯人先生のBLEACHです。小学生の時に出会い、多感な思春期にBLEACHを読んだ結果純粋培養のイタい大人が出来上がってしまいました。まぁ仕方ない……

 というわけで今回はそんな久保帯人先生が2018年に読切を、昨年シリーズ連載をスタートさせたBURN THE WITCH(以下BTW)に関する考察記事を書いていきます。といっても別垢で投げていた記事の再掲です。

 

 BTWについて知らないよ、という方は以下のリンクから2018年の読み切り版が読めるので是非ご一読ください。また、ジャンプの公式アプリからジャンプのバックログが購入できるほか、2020年10月2日に単行本1巻が発売になったので、気になる方は読んでみてください。

 

 

 また、久保帯人作品に関しては既にガチの人がとんでもない文量の考察記事を書いているので、そちらも合わせて見ていただけると嬉しいです。当然 BTWの記事も書いてます。

 

hoasissimo.hatenablog.com

 

 

 前置きはこれくらいにしておいて、そろそろ本題です。

 

 

0.はじめに

 

 まず本考察を書くにあたり、以下の仮説を提示させていただきます。

 

仮説:BTW作中に登場する童話竜(メルヒェンズ)のモチーフは七つの大罪である

 

 作品をさらっと読んだだけの方・未読の方に「童話竜」について軽く触れておくと、BTWの物語の舞台となる「リバース・ロンドン」の誕生以前から存在すると言われる、童話になぞらえて名付けられた七頭の竜のことです。

 それぞれ『スノーホワイト』『レッドドレス』『ゴールデンアックス』『バブルズ』『シュガーハウス』『バンド・オブ・アニマルズ』『シンデレラ』の名がつけられています。

 文字情報だけだと分かりづらいのですが、本編に描かれていた背景から読み取るとそれぞれが『白雪姫』『赤ずきん』『金の斧』『人魚姫』『ヘンゼルとグレーテル』『ブレーメンの音楽隊』『灰かぶり姫(シンデレラ)』がモチーフになっています。

 それぞれの物語についての概要はここでは割愛します。

 

 本仮説は、これら七頭の竜のモデル/モチーフとして採用されているのがキリスト教圏(とりわけカトリック)の「七つの大罪」ではないのか、というものです。

 七つの大罪についての詳細は以下を参照ください。

 厨二の方には馴染み深いですね。「傲慢」「憤怒」「怠惰」「色欲」「強欲」「嫉妬」「暴食」の七つです。

 

ja.wikipedia.org

 

1.童話竜の成り立ちと七つの大罪

 

 さて、仮説を立証するにあたり、作中の描写からそれらしき根拠を引っ張ってこようと思います。

 

1-1.ダークドラゴンの「始祖」

 

 童話竜については伝説上の御伽噺という側面が強く、ほとんど神話のような存在となっているので設定に関する情報そのものの開示が少ないのですが、魔陣隊長官ブルーノ・バングナイフの発言にそれらしきものがありました。

 

 根拠①:童話竜は「ダークドラゴンの始祖」と呼ばれている。

 

 ブルーノは童話竜の一頭、シンデレラと対峙した際に以下のように述べています。

 「童話竜(メルヒェンズ)、ダークドラゴンの始祖、邪竜指定、永久討伐対象、存在不詳の人類の敵」

 このセリフを正しいとするならば、「作中で登場するあらゆるダークドラゴンは童話竜が原点となって生まれた」ということになります。言うなれば全てのダークドラゴンの生みの親が童話竜というわけです。

 

1-2.ダークドラゴンの成り立ち 

 

 根拠②:ダークドラゴンは人間の負の感情を吸収して生まれる。

 

 ここでダークドラゴンの成り立ちについても触れておきます。

 まず通常のドラゴン(ダークドラゴンと対比する形でこちらはライトドラゴンと呼ばれています)は、恐らくですが死した人間(あるいは動物)の魂が転じた姿です。BLEACHの霊における整(プラス)と虚(ホロウ)と関係性と類していると思われるので、これはほぼ間違いありません。

 BTWの読み切りではダークドラゴンの発生として、「ドラゴンは、人間に接触すると徐々に人間の持つ負の感情を吸収し、人に害為すダークドラゴンとなる」という設定がナレーションで明かされています。読み切り版ではキャラクターの一人、バルゴの「(主人公である女性キャラの)パンツを見たい」という欲望を吸収してダークドラゴンに転じていました。

 つまり、ダークドラゴンは人間の負の感情を吸収して生まれる、というのは確定情報です。

 

 ここで根拠①と②を照らし合わせます。

 童話竜もまたダークドラゴンの一種(≒原種)であり、そのダークドラゴンは人間の負の感情を吸収して生まれる。つまり童話竜もまた人間の負の感情を吸収した結果生まれる<ということです。

 これを一つの結論として覚えておいてください。

 

1-3.カトリック圏における「原罪」の概念

 

 根拠③:負の感情・欲望の原点は「原罪」あるいは七つの大罪である。

 

 カトリック圏では、人類の祖であるアダムが神に対する不従順を働いたことを指して「原罪」と呼びました。

 ここでは省きますが、要するに蛇から唆されて自身の欲求・自由を行使し、結果としてアダムとイヴは楽園を追われることになった、ということです。

 また同様にカトリック圏では人間を罪に導く可能性があると見做される欲望や感情のことを指して「七つの大罪」と呼びました。

 これは人間の根源的な欲求であり欲望であり、ある種「負の感情」と呼べるかと思います。「嫉妬」は他者に向けられる羨望の感情であり、「強欲」は他人の物であろうと欲する欲望です。「傲慢」は驕り高ぶって他人を見下す優越感であり、「怠惰」はすべきことから逃れたいという逃避感情です。

 要する人間が生きていく上で抱く欲求の根源こそが「七つの大罪」であり、この欲求こそが人間を堕落させる要因である、ということです。

 この結論と、先に述べた結論を組み合わせると、以下が導かれます。

 

 人間の根源的な欲求・欲望は七つの大罪であり、負の感情を吸って生まれるダークドラゴンの始祖である童話竜は、その感情を反映した生き物である。

 

 つまりダークドラゴンは、アダムとイヴの失楽園によって(≒人間が感情・欲望に従って行動するようになった結果)生まれるようになり、最初に生まれたダークドラゴンこそが童話竜なのではないか、ということです。

 

2.シーズン1の描写から見る「嫉妬」との符号

 

 上述の仮説を裏付ける根拠の一つとして、BTWシーズン1のストーリーの根幹であるメイシー・バルジャーとエリー(メイシーがシンデレラに名付けた名前)の関係性が挙げられます。

 

 世間で人気絶頂の女性グループ「セシルは2度死ぬ(セシル・ダイ・トゥワイス)」のメンバーであったメイシーはある日突然グループを脱退し、ある日道端でドラゴンの幼体を発見して育てることを決めます。このドラゴンこそがシンデレラでありメイシーを虜にしたキャラクターです。

 

 このメイシーという人物は、自らのことを「持たざる者」と思っていて、常に「特別な何か」になりたいと思っているキャラクターでした。グループに入って活躍しても「あたしだけホントの自分じゃなくて」と卑下しており、常に自分だけの居場所・役割を探していました。

 そんな中出会った、「自分にだけ見えるドラゴン」を見つけた彼女は、自分が「特別になった」と思い込みます。実際それは外的要因の出現による一種の幻想だったわけですが、彼女は自らが望んでいたものを手に入れたわけです。

 また彼女は、主人公の一人であり「セシルは2度死ぬ」のリーダーであるニニー・スパンコールともう一人の主人公新橋のえるが会話しているのを見て「(のえるに対して)あんた誰よぉ!なんでニナちゃんの横で親友みたいなクチきいてんのよおおお!」と怒りを発露しており、それを見たニニーも「あたしが女と仲良くしてるといつもこうなの…」と溢しています。

 

 これらの描写から、メイシーは「特別に見える他人に対して常に羨望の眼差しを向けており、自分が所有する(と思っている)特別なものから他者を遠ざけることで自分自身が特別になりたい」という像を表現する人物だと言えます。そしてこれは、七つの大罪の一つである「嫉妬」の要素を十全に満たす要素であるのです。

 

ja.wikipedia.org

 

 ここで前述の結論に戻ります。

 先の結論で、私は「人間の根源的な欲求・欲望は七つの大罪であり、負の感情を吸って生まれるダークドラゴンの始祖である童話竜は、その感情を反映した生き物である」と述べました。

 ここにメイシーの「嫉妬」という要素を当てはめて見ると、童話竜の一頭であるシンデレラを生み出したのはメイシーの負の感情であり、その感情とは七つの大罪の一つである嫉妬である、という新たな結論が導き出せます。

 

 ここで一つの疑問として、「シンデレラの幼体がメイシーの感情に惹かれて目の前に現れた」のか「ドラゴンの幼体がメイシーに触れていく過程でシンデレラに成った」のかという問いが浮かぶのですが、どちらなのかは分かりません。

 ですが読み切り版のバルゴの負の感情に触れて成長したダークドラゴンが「パンツ見せて」という人語を発した描写から考えると、ドラゴンは生まれた時の姿形から人間の感情に触れることで別の姿へと変貌する、のではないかなと思います。こればかりはあまりに描写が少なく推測の域を出ませんが。

 

3.文化的背景

 

 ここまで書けばもうほぼ結論づけられている気もしますが、ダメ押しです。

 物語の世界観としては西洋、特にロンドンを舞台にしています。わざわざ「フロント・ロンドン」「リバース・ロンドン」という世界を描いていることからも、この「ロンドン(≒イギリス)」という土地の設定にも何かしらの意味があるのでは、と勘繰ってしまいます。

 私はイギリス文化史に精通しているわけではないので読者の中でここら辺に詳しい方がいたら教えていただきたいのですが、イギリスといえばイギリス国教会が思い浮かび、ローマ・カトリックから分離したのがこの国教会です。ここからクェーカー等のプロテスタントが分離していくわけですが、ここで重要なのは大枠としての「イギリスに根ざしていた宗教観はカトリックである」という点です。

 そして、七つの大罪は主にキリスト教の西方教会、主にカトリックで使われる用語である、ということを踏まえると、やはり物語の根幹にはカトリック的価値観である死生観や宗教観が関わっているのではないでしょうか。

 ここに関しては詳しく調べる機会と時間があれば追記していきたいと思います。

 

ja.wikipedia.org

 

4.童話『灰かぶり姫』との符号

 

 さて、この項は本題とは関係ないのですが、メイシーの描写が、童話『灰かぶり姫』の主人公の人物像と符号する、という点にさらっと触れたいと思います。

 

 メイシー:自分にないもの・他人から与えられたもの(=グループ、エリー等)を自らの側に置いておきたい、それによって自分が「特別」になったと思っていたが、エリーは自分の手元から離れてしまったしグループも自分の居場所足り得なかった。

 灰かぶり姫:魔女(=他人)によって与えられたドレスや靴、かぼちゃの馬車を使って王子と出会い、自分を「特別」にしたが、魔女が掛けた魔法は12時になると解けてしまった。

 

 作中でニニーが「魔法が解けてしまうのは、それが自分の力じゃないからよ」とあまりにかっこいい言葉を吐いていますが、これはやはりシーズン1のストーリーとして「自らの力で勝ち取ったニニーと、他者から与えられたものに居場所を見出そうとしたエリー」を対比として描いたのだと思います。

 そうした意味でエリーは現代の灰かぶり姫であり、童話の『灰かぶり姫』のストーリー・キャラクター設定を踏襲して現代版に作り替えた、と言えるでしょう。さすが師匠です。話作りがあまりにもうますぎる。

 

5.BLEACHとの対比

 

 本題である七つの大罪との関係性へ戻ります。

 ここでは師匠の前作BLEACHに登場するとある敵組織の設定を、本仮説を強化する論拠とできるのではと思ったからです。

 BLEACHの第三章破面篇で登場する破面(アランカル)の幹部格「十刃(エスパーダ)」の前身である「刃(読みは十刃と同じくエスパーダ)」です。

 「十刃」は殺戮能力に優れた十体の破面を選抜したものですが、「刃」は七体の破面から成り、それぞれが七つの大罪を冠していました。

 

 ヤミー・リヤルゴ:憤怒(解放名「憤獣(イーラ)」の日本語訳は「怒り」)

 ザエルアポロ・グランツ:色欲(解放名「邪淫妃(フォルニカラス)」の元の語句はfornicación、意味は「姦淫」)

 バラガン・ルイゼンバーン:傲慢(解放名「髑髏大帝(アロガンテ)」の日本語訳は「傲慢」)

 アーロニーロ・アルルエリ:暴食(解放名「喰虚(グロトネリア)」の日本語訳は「大食」)

 

 このことから、初期の設定としてエスパーダは七つの大罪を模しており、BLEACHの隠れた裏設定の一つです。

 

 ではなぜここでBLEACHの設定を引っ張ってきたのかというと、BTWの世界がBLEACHの世界と地続きであり、設定の随所にBLEACHとの対比があるからです。

 

 例えば「ダークドラゴン」「虚」、ドラゴンを保護・管理する「魔法使い・魔女」と、霊魂を保護・管理する「死神」

 魔法使い・魔女の力の源である「魔力」と死神の力の源である「霊力」

 魔力を元に発動する、ナンバリングされた「マジック」と霊力を消費して発動する「鬼道」

 「フロント・ロンドンとリバース・ロンドン」という別世界と、「人間界とソウルソサエティ」という別世界

 

 ソウルソサエティを守護する護廷十三隊と、リバース・ロンドンを守護するウィング・バインドもそうですし、物語の設定の随所にBLEACHとの対比関係が見られるわけです。あとはBLEACHでも星座モチーフの設定(浮竹隊長の双魚理、阿散井恋次の双王蛇尾丸等)が見られますし、それはBTWのウィング・バインドにも見られます。

 

 このことからも、BLEACHで既に登場している七つの大罪モチーフの敵幹部の対比として、BTWでも同様のモチーフが用いられた敵が登場することもまた自然の道理として考えられるわけです。

 

 

 以上のことから、「BTWに登場する童話竜は七つの大罪をモチーフにしている」という仮説の立証を終えたいと思います。

 また、現時点(2021/02/10)でBTWはシーズン2の連載が決まっており、開発隊(パッチワークス)にスポットが当たることが分かっています。

 個人的な予想としては、「知的好奇心のある研究者」と親和性のある「強欲」を冠した童話竜が出てくると熱い展開ですね。童話だと『金の斧』が該当するでしょうか。

 まぁこれに関しては完全に妄想と想像の域を出ないので、大人しくシーズン2の連載開始を待とうと思います。

 

 

 それではまた。

 

 よしなに。