けろの漫画雑談所

漫画の感想・考察・妄想の集積所です。主にジャンプ作品についてだらだらと語ります。

【感想】第300話_問われるヒーローの真価【僕のヒーローアカデミア】

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 どうも、けろです。
 週刊少年ジャンプ10号・ヒロアカ300話の感想です
 ではやっていきましょう。
 

1.ヒーロー社会に走る波紋

 

 ヒーローと超常開放戦線との戦争によってもたらされた傷は、ヒーローを治安の中心とする社会にはかなりの揺らぎを与えたようです。
 まず第一に「敵」の増加街中で大手を振って敵が悪事を働くようになり、治安の水準が大幅に低下していますね。
 
 第二に自警団の台頭。これは奇しくもスピンオフ作品である『ヴィジランテ ―僕のヒーローアカデミアILLEGALS(イリーガルス)―』の世界観と似ています。ヒーロー認可、つまり個性の自由使用許可を得ていない一般市民が、"何故か"市場に流通しているサポートアイテムを手に敵に立ち向かうよく言えば正当防衛、悪く言えば私刑ですよねこれ。
 これらの「揺らぎ」はひとえに、戦争によって多くのヒーローが亡くなったり、戦争そのものに絶望してヒーローを辞した者が膨大だったからです。実際現着した洗濯ヒーローウォッシュも「遅いんだよ」と罵倒されていました。
 
~閑話休題~
 この「自警団」の問題点、つまり免許を持っている者とそうでない者の違いって皆さんは何だと思いますか。
 僕は個人的にですが、「敵の正しい制圧方法を知っている」ということだと思っています。
 
 どういうことかというと、ヒーローは確かに敵を倒すのが仕事ですが、それは手段であり目的は「逮捕」です。犯罪者といえど人間ですし、(ヒロアカの世界の法体系がどうなっているかは分かりませんし、刑の執行を待たずに留置するタルタロスがある以上全く同じというわけではありませんが)逮捕・裁判・懲役・更生の司法的プロセスの大枠はあると思います。
 
 であるなら、ヒーローは「敵を殺してはいけない」んです。もちろん時と場合によると思いますが、少なくとも「確保において必要以上な危害は加えてはいけない」のだと思います。ヒーローが国家資格制、つまり国によって活動を許された、公務員等に近しい職業だとするなら、それはあくまで社会装置として機能するべきであって、敵であっても必要以上に敵を傷つけるのはNGなんですよ。警察だって犯罪者といえど即殺しないじゃないですか。
 
 加えてもう一点、「周囲の被害を最小限に抑える」こと、つまり「自己保身だけではなく、常に全体にとっての最適解を導かなければいけない」ということです。初期の爆轟が怒られてたのはこれが原因ですね。
 逆説的に言うならば、今回登場した市民ら自警団は、これらに適していません。敵だからといってボッコボコに打ちのめすし、周囲の人や建物に危害を加えるし。彼らはあくまでも「自己防衛」としての手段として個性を使用しているだけで、周囲のことを慮っているわけじゃない。これが「自警団」と「ヒーロー」の本質的な違いだと思いました。
 
〜閑話休題終わり〜
 
 ヒーローを辞す者の増加、これって仕方ないとはいえ「温度差」の問題なんですよね。
 超常黎明期の混沌とした世界の中でヒーローになる人というのは、往々にして自己犠牲の精神や奉仕精神がその中心にあるのに対して、ヒーローが飽和し犯罪発生率が減り、平和というのが日常生活の前提になった世界でヒーローを志す者は、どうしても「名声」や「承認欲求」といった、他者からの評価依存に傾倒する人が多くなってしまう。
 
 なんとなくアイドルグループの趨勢に似ている気がするなぁと思いました笑
 知名度が低いデビュー当初・グループ立ち上げに際して応募してくる人と、そのグループが著名になり、「そのグループそのものが憧れの対象」となった後でそのアイドルを志す人とでは、多かれ少なかれマインドというのが違ってくるのかなと(もちろん悪い意味だけではないです。僕自身コアなドルオタなので)。
 
 とても皮肉なことに、戦争によって多くのものが失われ、日常生活が180度変わって初めて、敵ステインが口にしていた「真のヒーロー像」というものが炙り出され、そうでない者はふるいにかけられているんですよね……
 

2.ヨロイムシャとエンデヴァーの対比

 

 それを如実に表しているのが、ヨロイムシャとエンデヴァーの対比なのかなと思いました。
 ヨロイムシャの早々の引退宣言、彼は独白の中で「俺は誰かに求められたかったんだ」とこぼしています。
 彼にとってヒーローとは、その活動を通じて他者からの評価を得ることであって、誰かに自分の生き方やあり方を肯定してほしいという承認欲求が根底にあったんだなと。
 だからこそ戦争で社会のあり方がひっくり返ったときに、リターンとリスクのバランスが崩壊してしまったからこそ、自らが身を削ってまでヒーロー活動を続ける意義を見出せなくなってしまった。それが良いとか悪いとかいう話ではなく、彼も孤独感を他人に依存することで紛らわせようとする一人の人間だったのではないか……と思うわけです。まぁその承認欲求だけであのヒーローランキングですから、結果論ながら彼が社会に齎していた便益というのは大きかったんでしょう。あとおじいちゃんという点でもウケは良さそう。
 
 それと比べた時に、エンデヴァーの姿は良い意味ですごく歪んでいるんですね。
 彼は戦争で心身ともにボッコボコにされました。死んだと思っていた長男が敵・荼毘として蹂躙の限りを尽くし自分への復讐を口にし嬉々として笑っていたんですから当然っちゃ当然。
 ただ、「エンデヴァーは死んだ」と口にしながらも、それでも彼はどこかで後悔と罪悪感を感じているような顔をしています。ヒーローエンデヴァーが折れたとしても、轟炎司という男の中にある「困っている人を助けたい」という思いはまだ完全に折れてはいない。その二律背反、葛藤から生まれたであろうあの表情は、読んでいてグッときました。
 もちろん戦争編周辺での彼の改心を以てして彼のこれまでの悪行が消えるわけではありません。長男が闇堕ちする理由も、家族が危ういバランスの只中にいるのも、焦凍が歪んだ育ち方をしたのも、それはひとえに「自らの強さ・ヒーローとしての貪欲さ」を突き詰めた結果周囲の人間を蔑ろにしてきたからです。
 その愚直な姿勢に、ホークスや見ろや君のように惹かれた/憧れた人がいるのも事実ですが、彼が齎した影の側面というのは、荼毘が「過去は消えない」と言う通り永劫彼にとっての咎となるのだなと。
 そんな、過去の罪と今の想い、これからのあり方の間でもがき苦しみ、心の傷と己の信念の狭間で苦悩する彼の姿は、真に「血の通ったヒーロー」な気がします。
 

3.轟冷との再会

 

 そんな揺らぎの真っ只中にいるエンデヴァーに追い打ちをかけるように登場したのが、長らく入院していた妻・冷(と息子・娘たち)
 普通なら慰めたりするであろうシーンで冷がかけた言葉は後悔も罪悪感も、皆あなたよりうんと抱えてる」でした。メンタルやられてるエンデヴァーに「お前より苦しんでる人がいる」と言うの、エンデヴァー当人からしたらオーバーキル以外の何物でもないんですが、客観的にみると正論なんですよね。
 
 確かに今エンデヴァーは喪失と絶望、後悔と罪悪感の淵で苦しんでいますが、その苦しみというのは彼がこれまで覇道を歩まんとする過程で多くの者に与えてきたのとまさに同質のものなんですよね。だからこそ、いっちょ前に苦しむ彼に対して、その苦しみはあなただけのものじゃない(≒あなた以外はそれを受け入れ、それでも前に進もうとしている)」と言ってのけた。今まで冷さんっておとなしいというか、優しげな雰囲気の方なのかなと思っていたんですが、かなりはっきりと言うタイプだと分かってびっくりしました。強い女性はめちゃくちゃ良い。
 
 
 ただ、彼女が手にしている花は、恐らくですがエンデヴァーがかつて彼女の見舞いに持ってきた花と同種。見る限りリンドウっぽくて、その花言葉が悲しんでるあなたを愛する」「正義」なんだから、やっぱり彼女なりにエンデヴァーに対してエールを送るというか、やっと向き合おうという決意の表れなんでしょうか……
 
 かつてエンデヴァーが、家族との関係を修復しようと歩み始めた時に、その思いを込めて冷に見舞いとして送った花。彼の歩みは不器用で、少しずつ少しずつ家族と向き合おうとしてきた彼に、冷は同じ花を持って現れた。
 この「強さ」と「覚悟」を感じさせる最後のコマ、めちゃくちゃに熱かった……
 
 これがヒーローエンデヴァー再起のきっかけになるのはほぼ間違いないとして、その過程で荼毘こと長兄燈矢の過去がどのように関わってくるのか、そして彼は今の荼毘とどう向き合っていくのか。
 あと「俺が燈矢兄を殺す」と歪んだ決意をした焦凍は、何を思うのか。
 
 そんな切なさと期待を感じさせる最新話でした。
 
 来週の展開が今から楽しみですね。
 
 それではまた。
 
 よしなに。